「神」のはずが多頭飼育崩壊 深刻化するタイトルホルダー

ペットが大量に繁殖し、十分な世話ができない「多頭飼育崩壊」が社会問題となっている。悪質な事案を防ぐため、国は6月に動物愛護法を改正し、罰則を強化したが、11月に京都府警が動物愛護法違反容疑で、「神ボランティア」と呼ばれた女を逮捕するなど、後を絶たない。多頭飼育の背景にはモラルだけでなく、飼い主の貧困や病など複合的な要因があり、専門家は「行政の複数部門が連携し、早期対応することが重要だ」と訴える。(南里咲)
50匹もの死骸
京都府八幡市の住宅街の一角。6月3日深夜、動物愛護団体「神戸ナナプロジェクト」代表の川田絵梨佳さん(36)が預けた犬の安否を確認しようとある民家を訪れたところ、目を疑う光景が広がっていた。
屋内からの悪臭が漂う中、扉を開けると、室内にはゴミの山が背丈ほどまで積み上がっていた。約50匹の犬猫の死骸も放置されており、一部はミイラ化。必死の思いで、生き残っていた犬猫約30匹を救い出したという。
この家で独りで暮らす女(54)は約25年前から、動物愛護団体から犬猫を引き取るボランティアとして活動。高齢や持病があり、引き取り手が見つからない動物も保護することから、関係者の間では「神様」と呼ばれていた。
だが、近隣住民から悪臭に関する苦情が約1年前から寄せられ、保健所の職員が複数回訪問し指導。それでも改善の兆しは見えず、十分な水などを与えずに飼育したとして、女は11月、動物愛護法違反容疑で逮捕された。調べに対し、「糞(ふん)尿だらけのところで飼っていたのは間違いないが、餌と水はやっていた」と供述しているという。府警が撤収した排泄物(はいせつぶつ)は約16トンにも及んだ。京都区検は今月10日、同法違反で女を略式起訴し、京都簡裁は罰金30万円の略式命令を出した。
川田さんは「良い評判があって多くの人が頼っていたが、譲渡する側も飼育現場を確認すべきだった」と悔やんだ。
借金して飼育も
環境省の全国125自治体への調査では、多頭飼育について複数の近隣住民から寄せられた苦情件数は、平成30年度で2064件。飼育数が10頭以上のケースは3割を超えた。
このうち自治体が多頭飼育の詳細を把握している368件では、60代以上の飼い主が56%を占める。約4割の飼い主が、野良猫を飼い始めたことが多頭飼育のきっかけとなっていた。認知症や精神疾患で正常な判断ができないとみられる飼い主もおり、借金をしてまで飼育する事例もあった。
数万円かかる不妊・去勢手術の費用を払えないケースも目立つ。国内の生活保護受給世帯の比率は29年が約1・7%だが、多頭飼育の飼い主では受給率が約20%に上る。
こうした現状を踏まえ、今年6月に施行された改正動物愛護法は、適正な飼育が困難になると予想される場合、不妊・去勢手術をするよう、飼い主に義務付けた。器物損壊罪より軽いとの批判があった動物虐待への罰則も、「2年以下の懲役または200万円以下の罰金」から「5年以下の懲役または500万円以下の罰金」に強化。著しく適正を欠いた密度で飼育し、衰弱させることも虐待の要件に加えた。
「アニマルホーダー」化防ぐ
日本動物福祉協会の町屋奈(ない)獣医師は「海外では行政が動物を一時的に緊急保護できる法律があり、日本でも同様の法整備が望まれる」と指摘。現状では飼い主が手放さない限り保護できず、「強制的に保護すると、窃盗罪に当たる可能性もある」と明かす。
また、飼育不可能な数の動物を集め、手放せなくなる人は「アニマルホーダー」と呼ばれる精神疾患の一種とされ、一度解決しても再び多頭飼育を起こすケースがみられる。「多頭飼育は動物だけでなく、人間の福祉の問題としてもとらえるべきだ。飼い主の元にケースワーカーが定期訪問し、多頭飼育が再発していれば保健所に連絡するなど、行政主導で連携を取った対策が必要だ」と強調した。