睡眠剤混入の皮膚治療薬、処方の7人が意識障害や事故 販売会社に異常報告の医師が証言

製薬会社「小林化工」(福井県あわら市)が製造した爪水虫などの皮膚治療薬に睡眠導入剤の成分が混入し、死亡者が出るなどした問題で、この薬を処方した「ナチュラルクリニック21」(岐阜県高山市)の久保賢介院長が取材に応じた。処方した7人が意識障害や交通事故を起こしており、「原薬を取り違えるなんて考えられない」と怒りをあらわにした。意識を失った患者らも「処方薬で命を脅かされることなどあってはならない。原因を早急に解明してほしい」と憤った。
問題となっているのは、経口抗真菌剤イトラコナゾール錠50「MEEK」。久保院長が薬を処方した患者7人が11月中旬~12月上旬、意識障害や交通事故を起こした。久保院長は12月2日、薬の販売会社(東京)に「異常事態が起きている」と電話で連絡。3日には、症例を書面にまとめて24時間以内の販売停止を求めた。7人が服用した薬には、同じ工程で製造されたことを示すロット番号が記載されており、同社は同日夕に販売中止を決めた。小林化工も睡眠導入剤「リルマザホン」の誤投入を確認し、翌4日から自主回収を始めている。
「薬を飲むのがあと10分遅かったら、保育園へ向かう運転中に意識を失っていた」。高山市の会社役員の女性(30)は顔の湿疹を治療するためにクリニックを受診。薬を処方され、2日朝に初めて2錠を飲んだ。
異変が起きたのはその約30分後だった。5歳と2歳の子どもを保育園に連れて行く準備をしていた際、足元がふらつき、廊下で崩れ落ちた。意識がもうろうとする中、5歳の長女が体を揺すってきて「保育園に行かなくていいの?」と呼びかけてきた。その後の記憶はないという。
翌朝、病院のベッドで目を覚ました。「ここはどこ?」。自分の置かれた状況が分からなかった。近くに住む母親から「薬を飲んだら体調がおかしくなった。来てほしい」と、自ら電話で助けを呼んだことを後から知らされた。長女は「ママがおかしいの」と、駆け付けた母親の胸に飛び込んだ。
車の運転への恐怖心が残り、今は近距離の移動しかできなくなった。後遺症の心配も絶えない。小林化工から謝罪はなく、「分かっていることだけでも直接説明してほしい。本当に許せない」と批判した。
別の建設業の男性(60)=同市=は11月27日、アトピー性皮膚炎の治療で2錠飲んだ。その直後、車を運転して現場に向かう途中に意識が薄れて電柱に衝突。車は土手に乗り上げた。1年ほど前から毎日1錠を服用していたが、症状が改善しないため、2錠に増やした直後の事故だった。「仕事ではダンプを運転することもある。いつも飲んでいる薬でこんなことになるなんて、信じられない」と怖がっていた。
久保院長のクリニックはアトピー性皮膚炎の治療に特化しており、約5年前からこの薬を月40~50人に処方していた。久保院長は「コスト削減のために、従業員の教育や安全管理体制が手薄になっていたのではないか。新たな犠牲者を出さないためにも、第三者が出荷前に薬を検査するなどの対策を講じるべきだ」と訴えた。【横見知佳】
厚労省と福井県、製薬会社に立ち入り調査へ
製薬会社「小林化工」(福井県あわら市)が製造した爪水虫などの皮膚治療薬に睡眠導入剤の成分が混入し、服用者が死亡するなどした問題で、厚生労働省と県は21日、合同で同市の工場を立ち入り調査する。作業記録の確認や従業員の聞き取り調査を進め、混入の経緯などを詳しく調べる。
睡眠導入剤の成分が混入していたのは経口抗真菌剤のイトラコナゾール錠50「MEEK」。2020年6、7月に製造し、9~12月に出荷した。同社によると、薬の製造過程で原料が減ることがあり、成分を追加する作業を行う際に睡眠導入剤「リルマザホン塩酸塩水和物」を誤って投入したという。成分の追加は、厚労省が承認した作業工程では認められていない。作業記録には、本来あり得ない睡眠導入剤の投入を示す番号が記載されていた他、出荷前のサンプル調査で異物混入を示唆するデータも検出されていたが、見過ごされたという。
また、同社は薬を服用して10日に死亡した70代女性について、服用と死亡に因果関係があると取材に認めた。【岩間理紀】