例年なら、この時期の病院は、インフルエンザの患者さんでいっぱいです。しかし、今年はインフルエンザの患者さんがほとんどいません。
厚生労働省は毎週、全国のインフルエンザ患者数を公表しています。それによると8月31日~11月29日の13週間の患者数は、たった263人。昨年同期は9万8279人でしたから、驚くべき低さです。昨年比で、なんと99・7%減。こんなことは、過去ありませんでした。
言われ出したのが、「ウイルス干渉」です。ある細胞がウイルスに感染すると、その周りの細胞もウイルスに感染しにくくなるという仮説で、こうして感染しにくい人が増えると、集団レベルで感染が抑えられるというのです。しかし、欧米諸国に比べて圧倒的に感染者数が少ない日本で、新型コロナがインフルエンザを駆逐できるかは疑問です。
そこで、もっとも妥当と思われる理由は、コロナ禍により、人々の濃厚接触が減り、さらにマスク着用や手洗い・消毒が習慣化したことです。また、毎年、インフルエンザの流行型は、海外から入ってくることが多いのですが、今年は、海外交流がほとんどありません。しかも今年は、ワクチン不足が発生するほど接種希望者が増え、例年なら接種しなかった人までインフルエンザワクチンの接種をしています。
インフルエンザでの死者数は、ここ2年、年間3000~4000人です。これに対して、現在(12月8日)のコロナの死者数は2259人ですから、コロナがインフルエンザに置き換わったとは言えるでしょう。
一方で、コロナ禍は、深刻な“二次災害”を引き起こしています。
最大の悲劇は、自殺者の増加です。警察庁によると、自殺者数は7月から4カ月連続で前年同月を上回っています。目立つのは、女性の自殺が多いことです。今年の日本の自殺者数は、10月までに1万7000人を超え、10月だけでも前年同月比で600人も上回っています。そのなかで、女性の自殺者は80%以上も急増し、全体の3分の1を占めるまでになっています。
コロナ禍は社会でもっとも弱い者を直撃するわけです。女性に対する労働差別(給料格差)がある日本では、シングルマザーは子供を抱えて独立してやっていけません。そうしたシングルマザーが、人生を悲観して自殺する例が多いといいます。これは、医療では救えません。
もう一つ、私が大いに懸念しているのは、認知症患者さんの増加です。仕事柄、老人施設にいくことがありますが、コロナ禍になって、施設では家族との面会を禁止するかリモートに切り替えました。しかし、リモートでは言語コミュニケーションはできても非言語コミュニケーションはできません。非言語コミュニケーションの中心はいわゆるボディータッチで、これが、認知症には効果があります。話しながら、手を握ったりするわけです。こうしないと認知症はどんどん進行します。
認知症の進行を遅らせるのは、「会話」「運動」「喜び」という3つの要素です。ステイホームの影響で外出も減って、コロナは、大事な3つの要素を奪いました。
日本認知症学会が実施したアンケートによると、コロナ禍の認知症の人の症状悪化について「多く認める」「少数認める」とした回答が4割に達し、「認知機能」「BPSD(行動・心理症状)合併症」などの症状悪化が挙げられています。感染拡大が収まらないと、認知症患者さんは増え続けるでしょう。
■富家孝(ふけ・たかし) 医師、ジャーナリスト。1972年東京慈恵会医科大学卒業。病院経営、日本女子体育大学助教授、新日本プロレスリングドクターなど経験。「不要なクスリ 無用な手術」(講談社)ほか著書計67冊。