2割で教職員投票廃止 1割で投票結果覆す 国立大学長選考 自治危ぶむ声も

各地の国立大学が、学長選考を巡って大きく揺れている。毎日新聞が全国の国立大にアンケートしたところ、2004年の国立大法人化以降、約2割に当たる17校の国立大で、学長を選ぶ際に参考とする教職員の「意向投票」が廃止された。04年以降に実施された意向投票結果の約1割が覆され、別の候補が学長に選ばれていたことが分かった。現場からは「大学の自治が崩壊する」と危ぶむ声も聞こえてくる。【吉田卓矢、田畠広景】
国立大は、国立大学法人法(国大法)施行を受けて04年から法人化された。以前は、教職員による直接投票で選ばれた候補者を文部科学相が任命していたが、法人化後は、学内外の委員で構成する「学長選考会議」が候補者を選び文科相が任命するよう改められた。多くの大学で投票は「意向投票」として残り、選考会議が新学長を選ぶ際の「参考」とされた。
アンケートは毎日新聞が20年11月12~30日に全国の国立大86校に対してメールやファクスで実施し、79校から有効な回答があった。一橋大や名古屋大など7校は無回答または一部回答。
教職員が投票する意向投票については、約2割(17校)が廃止。法人化の当初、廃止は3校にとどまったが、14年に国大法が改正され、選考会議が主体的に学長を選ぶよう通知が出されると、14校が相次ぎ廃止した。廃止理由は「(国大法の改正で)選考会議が主体的な選考を行うべきだと定められた」(筑波大)▽「国大法の趣旨を踏まえた」(長崎大)▽「投票結果と選考会議の結論が異なった場合、混乱をきたす可能性がある」(滋賀医科大)などの回答があった。
文科省は、14年に各大学に出した通知で「意向投票は禁止されるものではないが、過度に学内の意見に偏るような選考方法は適切でない」としている。中央教育審議会の分科会の報告書も「一部で、意向投票の結果をそのまま学長選考に反映している場合も見られる。法制度の趣旨からして適切ではない」などと指摘している。
意向投票は学長選考にどこまで反映されているのか。法人化後に実施された教職員の意向投票は、77大学で計305回(結果非公表の2大学除く)あったが、24校の計29回の投票結果が選考会議によって覆され、別の候補が学長に選ばれた。
筑波大など計8校で学長の任期上限廃止
学長の任期の上限については、79大学のうち筑波大や東京芸術大、東京工業大、大分大など計8校が廃止していた。廃止理由については「安定的な運営のため」(弘前大、島根大)▽「選考会議が優秀と認めた人材を任期で失うのは大学にとって損失」(鳴門教育大)などと回答した。
学長の任期は7割以上の59校が通算任期の上限を6年と規定。上限の最長は大阪大で10年、東京農工大は70歳未満の年齢制限があった。上限の必要性について尋ねたところ、「長期にわたり同一人物が学長に就くと、施策に偏りがでる」(お茶の水女子大)▽「自由闊達(かったつ)な意見が出にくい状況が生まれることが懸念され、世代交代が進まない」(奈良教育大)などと回答があった。
明治学院大の石原俊教授(社会学)は「2割の大学で投票が廃止され、1割もの投票結果が覆されていたのは驚きだ。学長の独裁化・私物化への一定の歯止めが機能しなくなっており、近代の大学が育んできた教職員らによる大学自治は危機的状況にある。任期の上限撤廃も、長期政権の学長に権力が集中し、教員による自由な発言や批判は難しくなるだろう」と話している。
「意向投票」を廃止した大学=17校
北海道教育大▽弘前大▽東北大▽山形大▽筑波大▽宇都宮大▽政策研究大学院大▽総合研究大学院大▽金沢大▽滋賀医科大▽奈良女子大▽和歌山大▽広島大▽福岡教育大▽九州工業大▽長崎大▽大分大
投票結果が覆ったことのある大学=24校
※は2回で、他は1回
北海道教育大▽山形大▽東京学芸大▽東京工業大▽東京海洋大▽電気通信大▽新潟大▽上越教育大▽山梨大▽富山大※▽静岡大※▽滋賀大▽滋賀医科大▽京都工芸繊維大▽大阪教育大※▽奈良教育大▽岡山大▽徳島大▽香川大※▽高知大▽福岡教育大▽九州大▽佐賀大※▽鹿児島大
学長の通算任期の上限を撤廃した大学=8校
旭川医科大▽弘前大▽筑波大▽東京芸術大▽東京工業大▽島根大▽鳴門教育大▽大分大