静岡市駿河区の市立日本平動物園で1日、ライオンのマッチ(メス)が、ギル(オス)にかまれて死んだ。初めての同居訓練でのできごと。2頭は直前まで柵越しに体を寄せ合うなど良好な関係だった。園の人気者として10年以上にわたり愛されてきただけに、ファンは悲しみと感謝の気持ちを献花で伝えている。
9日、献花台には多くの人が訪れ、花に囲まれたマッチの遺影を眺めていた。周りには手紙や子どもが描いた似顔絵が並ぶ。沼津市の主婦(40)は「娘とよく見に来た。穏やかな子で、亡くなったと知ってショックだった。天国でゆっくりしてほしい」と話した。菊川市の会社員(30)は「とても悲しい。(ギルと)ペアで仲良く生きている姿を見たかった」と突然の別れを惜しんだ。
園のライオンは、昨年7月にキング(オス)が老衰で死んで、メスのマッチとムールのみとなった。ムールは他の個体と相性が悪く、マッチは単独で展示されていた。野生のライオンは群れで暮らすことから、園は複数で生活させることが望ましいと考え、11月に裾野市の富士サファリパークからギルを迎えた。
マッチとギルは柵越しに「お見合い」を重ね、互いに鳴き交わし、寝転んで腹を見せた。園は、関係は非常に良好と判断し、休園日の今月1日午前9時半頃、広場で2頭を会わせたところ、先に広場に出て待っていたマッチに、ギルが飛びかかり、かみついた。職員がやめさせようと放水などをしたが、ギルは約20分間かみ続け、マッチは窒息死した。
園によると、本能で突然攻撃的になったとみられる。ギルが相手を、相性の悪いムールと勘違いして攻撃した可能性もあるという。
一方のマッチはギルが来ると分かっていた様子だった。現場にいた飼育第1係長の後藤正さんは、「会えることを期待して、扉の前で待っていた」と振り返る。引き合わせる直前も、マッチはギルに向かって喉を鳴らし、寝転んで腹を見せていたという。
マッチは2006年7月生まれで、10年3月に富士サファリパークからやってきた。優しい気性で、ひなたぼっこする様子が来園者を和ませていた。ギルも日頃はおとなしく、職員を威嚇することもなかった。
園は「残念でならない。野生動物の本能と向き合うことの難しさを改めて教えられた。マッチの死を決して無駄にしない」とのコメントを出し、後藤さんは「ギルに責任はない。ギルを批判的に見ることが起こらないでほしい」と語った。
昨年7月に死んだキングは、立派なたてがみを持ち、「百獣の王」としての威厳でファンの人気を集めていた。献花台に寄せられた手紙には「天国でキングと仲良くしてね」という記述も多い。献花台は1週間ほど設置される予定だ。