世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産」の構成資産である橋野鉄鉱山(岩手県釜石市)で、水路の石垣が崩落する危険性が高まっていることが、市が地質調査会社に委託して行った積み石の定点観測で分かった。調査を始めた2019年7月から20年11月までに、最大で約3・5ミリのズレが確認された。市は、危険性が最も高い25個前後の石を積み直した上で補強するなど、対策に乗り出す方針を決めた。
水路は、高炉に風を送る動力源となる水車を回すため、史跡を南北に貫く形で設けられた。市世界遺産課は、水路のうち、「二番高炉」近くの「水路石垣」と呼ばれる区間などの危険度を検証。この区間の東側部分約20メートルのうち、中央付近の約7メートル(高さ最大約2メートル)が、将来的に崩落する可能性が最も高いと判断し、石をいったん外して積み直すことを決めた。
橋野鉄鉱山の高炉場は1860年頃に整備され、約160年が経過したため、石積みは不安定な状態だった。今回の調査で、石が徐々に下がったり、前に押し出されたりしている現状が数値でも裏付けられた。
石のズレが生じる原因は、樹木の根が石を押したり、雨水が浸透して土壌を軟弱にしたりするためだとみられる。このため、積み石近くの切り株の一部を取り除き、積み石の裏側に小石を入れる補強対策なども講じる。
「水路石垣」の残りの区間は、「樹木の根が枯れ影響が少ない」などとして、当面は様子を見る方針。
今回の定点観測で、石のズレは雪解け時期の3~5月頃に大きくなることも判明した。このため、今年3~5月の観測結果も踏まえ、積み直す範囲を決める。市は、2021年度に国などと調整を進め、22年度に対策の完了を目指す。
市は、「水路石垣」南側の「平場石垣」と北側の「長屋跡石垣」の危険度も調査し、この二つの石垣についてもネットで覆うなどの補強策を取る考えだ。
岩手大の小野寺英輝准教授(産業考古学)は「橋野鉄鉱山の全体像を理解するために、水路は重要な要素。石垣が崩れてしまえば、世界遺産としての価値が伝わりにくくなるので、整備は必要」と話している。