兵庫県立大大学院シミュレーション学研究科の土居秀幸准教授(生物学)が2月、昆虫食の導入を提言する論文を寄稿し、欧州の科学誌に掲載された。昆虫食は、コオロギを使ったせんべいの販売や専門通販サイトの売り上げが激増するなど注目を集めており、土居准教授は「栄養価が高くアフターコロナの食糧危機を救う食料源になる」と話している。
国連世界食糧計画(WFP)は2020年4月、新型コロナウイルスの影響で今後、食糧不足に苦しむ人が以前から倍増し、約2億7000万人になると予測した。アメリカなど先進国の精肉工場で集団感染が起きるなど、加工食品の生産や流通に大きな影響があった。
土居准教授は鳥類や哺乳類などの家畜は、感染リスクへの警戒が必要とする。鳥インフルエンザのヒトへの感染例が確認され、新型コロナウイルスはコウモリ由来との指摘もある。一方で、「昆虫は人間と共通して感染するウイルスは少ない」という。
生産面では、家畜に比べて必要な餌や水が少ないことから「飼育の効率が良く、二酸化炭素の排出も少なく環境に優しい」と指摘。「たんぱく質が多いうえ、家畜より脂質が少なく栄養価が高い」とメリットを強調する。
「無印良品」を展開する良品計画(東京)は20年春、粉末化したコオロギを練り込んだせんべいを販売し、話題を集めた。昆虫約40種類の計300商品を販売する通販サイト「バグズファーム」も昨秋から売れ行きが好調で、21年1月は前年同月比の約10倍になった。サイトを運営するアールオーエヌ(埼玉県戸田市)は東京、大阪、福岡など全国10カ所に昆虫食の自動販売機も設置。粉末やローストにした商品が人気という。
長野県の「いなごのつくだ煮」、韓国の「ポンテギ(蚕のさなぎ)」など、アジアやアフリカは昆虫食の文化がある。13年の国連食糧農業機関(FAO)の調査によると、既に世界で20億人以上が昆虫を食べ、1900種以上が食材に使われているとされる。
アールオーエヌの辻ひろあきさん(43)は「栄養価が高くエコな食材なので、ゲテモノ扱いせずに一度食べてみてほしい」。土居准教授は「見た目で敬遠する人も多いが、最近は粉末状にするなど工夫された商品が流通している。昆虫食はコロナ禍後の人類にとって、理想的なたんぱく源になるのではないか」と話している。【韓光勲】