徳島市で発生した連続父子殺害事件(被疑者死亡)などを捜査し、テレビ番組で「リーゼント刑事」として親しまれてきた徳島県警の秋山博康警部(60)が3月で定年退職する。連続殺害事件の情報を得るために、テレビに出て訴えてきた。逮捕できなかったことは悔いとして残るが「刑事は被害者の代理人」との信条を後進に伝えた刑事人生。春からは、講演やテレビの情報番組に出演し、犯罪抑止活動に力を注ぐ。(新谷諒真)
「知り合いにやられたんやな。絶対、捕まえたる」。2001年4月、遺体にそう誓った。現場の焼け跡から発見され、損傷がひどかったが顔の表情は分かった。「なんでお前がやるんな」という驚きの色が見て取れたという。
地道な聞き込み捜査などから、父子から金を繰り返し借りていたという男が浮上。全国に指名手配をかけた。だが、行方をくらました男を逮捕できなかった。
事件の情報提供が途絶えた約1年後、テレビ局から番組の出演を打診された。警察の仕事ぶりを伝える番組で、名物刑事として紹介したいという。「顔が割れると、張り込みでの捜査に支障が出る」と当初は断ったが、連続殺害事件をアピールして情報を集めることができると思い直し、出演することになった。
番組では、鮮やかな逮捕劇をみせ、人気を博した。他局からも出演依頼が相次いだ。
なぜ、名物刑事なのか。
それはリーゼントにある。ロックミュージシャンの矢沢永吉さんにあこがれて高校時代にリーゼントにすると、警察学校時代をのぞき、そのスタイルを通した。
そのおかげで、容疑者に間違えられたことがある。リーゼントで
強面
( こわもて ) だったある事件の容疑者を目撃した同僚から「秋山がやりよったぞ」と疑われた。警察無線には「容疑者は秋山と酷似」と伝えられる始末だ。テレビ局がそうしたエピソードをおもしろがったらしい。
連続父子殺害事件では、男の名前を呼ぶキャッチコピーをつけた手配ポスターを04年につくった。当時は斬新さから注目を浴びたポスターだ。テレビ出演のたびにポスターを持って、行方を隠した男に呼びかけた。
そうした努力を重ねると全国から情報が集まってきた。だが男までたどりつけなかった。
11年には捜査本部が置かれた徳島東署(現・徳島中央署)の刑事1課長に就任し、事件を追いかけたが翌年、岡山市内で男が死体で発見された。男を強盗殺人容疑などで書類送検したが、被疑者死亡で不起訴。事件の解決には至らなかった。「被害者との誓いを守れなかった。あの無念は忘れられない」
19年からは、経済犯罪やサイバー犯罪などを捜査する生活環境課次長になり、インターネットを使った犯罪捜査の指揮をとる。県警内にはリーゼント刑事をテレビで見て、他県から警察官を志望した若者もいるという。彼らには「刑事は被害者の代理人」という言葉を贈る。
情報番組では、犯罪抑止につながるコメントを心がけるつもりだ。もちろんリーゼントをやめるつもりはない。「一生、一刑事。リーゼント刑事」
◆連続父子殺害事件=2001年4月、徳島市の住宅火災の焼け跡から松田優さん(当時66歳)、兵庫県五色町(現・洲本市)の火災現場で長男の浩史さん(当時38歳)の絞殺遺体が相次いで見つかった事件。徳島、兵庫両県警は同年5月、親子と知人の男を殺人、死体遺棄容疑で指名手配。名前を呼ぶ形式の指名手配ポスターで知られる。12年10月、岡山市で男の死体が発見され、逮捕に至らなかった。