映画や小説で殺人事件が描かれるのは、その背景事情が好奇心や問題意識をくすぐるからだろう。しかし時に、あまりにも単純な動機で、人は誰かを簡単に殺害してしまうのが現実でもある。 2019年に起きた、ある殺人事件の裁判に感じたのも、そんなやるせなさだった。(ライター・高橋ユキ) ●養父に多額の死亡保険金をかけられた被害者 2019年1月に千葉県富津市の漁港で、内装工のXさん(23=当時)の遺体が見つかった。当初は釣りをしていたXさんが海に落ちた事故とみられたが、Xさんには多額の死亡保険金がかけられており、警察は保険金殺人事件として捜査を進めていた。 事件から7カ月後に、殺人容疑で逮捕されたのは、Xさんが亡くなった際に現場にいた3人の男たちだった。養父で内装会社社長のA(50)、彫師のS(33)、内装工のK(51)である。Xさんには多額の死亡保険金がかけられており、受取人はすべて、養父のAになっていた。 3人に対しては千葉地裁で2020年末からそれぞれ裁判員裁判が開かれていた。 Kに関しては2020年12月16日に懲役10年(求刑懲役15年)の判決が言い渡されすでに確定、Aには3月2日に求刑通りの無期懲役判決が言い渡されている。Sについては、1月から裁判員裁判が開かれていたが、証人として出頭予定だったKが出頭せず、公判期日が取り消しになっている。 彼らの裁判を通して明らかになったのは、Xさん殺害は突発的な犯行ではなく、ある程度練られた計画のもとに実行されたものであるということだった。Aの目的はXさんの死亡保険金だったと、一審判決では認定されている。 ●養子縁組直後から契約、合計4800万円 検察側冒頭陳述によると、事件の首謀者はA。内装業を営んでいた。Sは彫師で、かつてAの元で働いていた時期があり、事件の実行行為を担った。 Kは事件前年から、Aの会社で働いており、Xさんと同居していた。一緒に釣りに行く仲でもあり、事件当日は車を運転し、ともに港で並んで釣りをして、Sの実行行為を手伝った。 Xさんは2015年から、Aのもとで内装工として働いていたが、事件前年の8月、養子縁組をしてAの養子となる。直後に、Xさんの生命保険契約に大きな動きがあった。これに関わった保険外交員は、Aの中学時代の同級生だ。 まず養子縁組3日後、Xさんを被保険者とする保険契約が締結される。死亡保険金の受取人はAだった。その後も複数の保険の新規加入や契約変更により、AはXさんの死亡保険金、合計4870万3600円の受取人となる。 ●「じゃ、やっちゃうか」
映画や小説で殺人事件が描かれるのは、その背景事情が好奇心や問題意識をくすぐるからだろう。しかし時に、あまりにも単純な動機で、人は誰かを簡単に殺害してしまうのが現実でもある。
2019年に起きた、ある殺人事件の裁判に感じたのも、そんなやるせなさだった。(ライター・高橋ユキ)
2019年1月に千葉県富津市の漁港で、内装工のXさん(23=当時)の遺体が見つかった。当初は釣りをしていたXさんが海に落ちた事故とみられたが、Xさんには多額の死亡保険金がかけられており、警察は保険金殺人事件として捜査を進めていた。
事件から7カ月後に、殺人容疑で逮捕されたのは、Xさんが亡くなった際に現場にいた3人の男たちだった。養父で内装会社社長のA(50)、彫師のS(33)、内装工のK(51)である。Xさんには多額の死亡保険金がかけられており、受取人はすべて、養父のAになっていた。
3人に対しては千葉地裁で2020年末からそれぞれ裁判員裁判が開かれていた。
Kに関しては2020年12月16日に懲役10年(求刑懲役15年)の判決が言い渡されすでに確定、Aには3月2日に求刑通りの無期懲役判決が言い渡されている。Sについては、1月から裁判員裁判が開かれていたが、証人として出頭予定だったKが出頭せず、公判期日が取り消しになっている。
彼らの裁判を通して明らかになったのは、Xさん殺害は突発的な犯行ではなく、ある程度練られた計画のもとに実行されたものであるということだった。Aの目的はXさんの死亡保険金だったと、一審判決では認定されている。
検察側冒頭陳述によると、事件の首謀者はA。内装業を営んでいた。Sは彫師で、かつてAの元で働いていた時期があり、事件の実行行為を担った。
Kは事件前年から、Aの会社で働いており、Xさんと同居していた。一緒に釣りに行く仲でもあり、事件当日は車を運転し、ともに港で並んで釣りをして、Sの実行行為を手伝った。
Xさんは2015年から、Aのもとで内装工として働いていたが、事件前年の8月、養子縁組をしてAの養子となる。直後に、Xさんの生命保険契約に大きな動きがあった。これに関わった保険外交員は、Aの中学時代の同級生だ。
まず養子縁組3日後、Xさんを被保険者とする保険契約が締結される。死亡保険金の受取人はAだった。その後も複数の保険の新規加入や契約変更により、AはXさんの死亡保険金、合計4870万3600円の受取人となる。