◆アメリカの航空会社は全てを公開
ドアを閉めれば“密室”となってしまう航空機は、どうしても新型コロナウィルスの感染に対して懸念を持たれてしまう。だが、昨春以降、各エアラインは航空機にはHEPAフィルターを装備し、2~3分で換気のできることなど、感染症予防対策に力を入れている。だが、日本とアメリカのエアラインの取り組みを見比べてみると、大きな違いがあることがわかる。
アメリカ3大エアラインの アメリカン航空、デルタ航空、ユナイテッド航空(アルファベット順)は、感染症対策の取り組みにキャッチコピーを付けて分かり易く訴えており、どのメーカーのどの除菌液を使用しているか固有名詞を入れて宣伝する。対策の情報をUp Dateするアプリなども開発されている。更には、どの医療機関ないし医科大学のアドバイスを受けているかまでの詳細を告知している。
特にデルタ航空では、2020年6月には社内組織にグローバルクリーンネス部門を立ち上げ「クリーンアンバサダー」を指名する念の入れようである。このアンバサダーは、メイヨークリニック、エモリー、およびリソルのメーカーであるRBのデルタ航空のパートナーからの意見を基に開発された厳格な品質保証プログラムを監督している。各方面のスペシャリストの意見を元に、徹底したコロナ対策が取られているのである。
◆なぜか回答を控える日本の航空会社
では、たいして日系の航空会社はどうかというと、ANAが「ANA Care Promise」と伝えている。JALは「安全・安心な空の旅をお届けする」と表記するがアメリカのエアラインに比べインパクトは弱い。これだけでは、どのような感染症予防対策をしているのかわかりにくく、利用者側に立って見ればどちらがより高い訴求力を持つかは一目瞭然である。
例えば、除菌に使われる消毒液1つ取っても、その固有名詞が出ているのはPeach Aviationのみ。ホームページにおいて「A2Care」という商品を告知するのが日本では唯一である。この商品、あまり知られているとは思えず、調べてみた。横浜と金沢に本社を持つ「株式会社 ADI.G」というメーカーが製造し、ANAグループの「全日空商事」で扱っている。使用するエアラインはPeach Aviationの他に、ANAとソラシドエア、スターフライヤーの表記がある。だが、Peach Aviation以外はANAでさえ何の告知もしていないことに違和感を覚える。
そこで日系エアライン各社に使用している薬剤について取材した。JAL広報部は、使用する薬剤などが変更されることも多いと前置きし、「会社として回答は控えさせて頂きたい」とのことだった。ジェットスタージャパン広報部は、同様に「今後指定の消毒液が変わる可能性があることから具体的名称の表示は避けて頂きたい」と回答した。スプリングジャパンのマーケティング推進部からは「アルコール消毒等の具体名を出さないのは社内規定によるものです」と回答があった。
◆使用する消毒液の商品名をホームページに出すと法律に抵触する!?
どうにも歯切れの悪い回答に思えるのだが、じつは医薬品の表示については、厚生労働省が管轄する医薬品医療機器等法(通称:薬機法で旧称:薬事法)が絡んでくる。同法内に規制される「医薬品等の広告規制について」を読むと、虚偽や誇大広告に対する規制のあることがわかる。
これについて東京都福祉保健局の健康安全部薬務課監視指導担当に取材すると、「エアラインのホームページに告知を出すこと自体に問題はないが、内容によっては規制を受けることがある」と回答を得た。つまり、商品名を出して薬効を謳うことにより、薬機法に抵触する可能性が少なからずあるのである。日系の航空会社が使用している薬品名を公表しないのは、こうした事情が絡んでいるからなのかもしれない。
◆船会社は全てを公開しているのだが……
だが、同じ交通機関でも船会社の取り組みは異なる。株式会社商船三井のグループ会社である「株式会社フェリーさんふらわあ」は国内3航路を持つ貨客輸送のフェリー会社だ。この会社の感染症対策は徹底している。
ダイキン株式会社製の空気清浄機「パワフル光クリエール」を設置し、船内の抗菌・抗ウイルス施工に株式会社YOOコーポレーションの無光触媒「エコキメラ」を使用。そして、清掃除菌作業に株式会社UNISonsの技術を利用している。このUNISons社は、昨年の感染者が多数出たダイヤモンドプリンセス号の感染対策と消毒を行った専門集団でもある。
「フェリーさんふらわあ」広報担当の森氏によると「薬機法を確認したうえで製造、サービス提供会社にロゴも含めたホームページへの掲載許可を取っています」とのことである。
日系エアラインの見せ方が悪いという訳ではない。ただ、利用者はコロナ禍が長くなれば感染症対策の知識は増えていく訳であり、それに応える企業姿勢が大事なのではいだろうか。実際に機内でどのような除菌液を使用して、どのように除菌、感染症予防対策をしているかを事前に告知をすることで、より安心、安全に航空機で運航できるのではないだろうか。<文/北島幸司>
【北島幸司】
航空会社勤務歴を活かし、雑誌やWEBメディアで航空や旅に関する連載コラムを執筆する航空ジャーナリスト。YouTube チャンネル「そらオヤジ組」のほか、ブログ「あびあんうぃんぐ」も更新中。大阪府出身で航空ジャーナリスト協会に所属する。
Facebook avian.wing twitter@avianjune instagram@kitajimaavianwing