今月1日、自民党本部で記者団の前に立った自民党選挙対策委員長の山口泰明、公明党選対委員長の西田実仁に笑顔はなかった。
「もっと強引にやってもいい部分もあったが、丁寧に丁寧にやって、ここに至った」
山口は慎重に言葉を選んだ。「感情も含めて色んなことがあるが、信頼関係をより強固にできるきっかけになった」。西田は自らに言い聞かせるように語った。
2人はこの日、衆院広島3区を巡り、公明党副代表の斉藤鉄夫を与党統一候補とする合意文書に署名した。だが、参加を予定していた両党の地元組織トップの姿はなかった。自民党広島県連には、斉藤擁立への不満がくすぶっているためだ。
その夜、斉藤が菅義偉首相の携帯電話を鳴らすと、すぐに菅から折り返しがあった。
「自民党県連の理解をいただけるよう、とにかく頑張ります」。斉藤の言葉に、菅は「頑張って。応援するから」と励ました。菅は官房長官時代、公明党幹事長だった斉藤と毎日のように連絡をとりあっていた。「菅さんは本当に公明党に配慮してくれた」。斉藤は振り返る。
安倍政権で、菅は公明との調整役を担った。公明の支持母体・創価学会の副会長で、選挙を取り仕切ってきた佐藤浩ともパイプを持ち、強固な関係は「SSライン」と称された。
2019年10月に消費税率が10%に引き上げられた際、公明党が主張した軽減税率が導入された。首相だった安倍晋三や副総理兼財務相の麻生太郎は当初慎重だったが、導入を後押ししたのが菅だった。麻生が衆院の早期解散を安倍に進言すると、菅は公明の意向を踏まえ、強く反対した。「菅は公明の方ばかり向いている」。安倍時代、麻生が不満を漏らすこともあった。
ところが、菅が首相に就くと、自公がぎくしゃくする場面が目立ち始めた。「調整役の『菅官房長官』がいなくなった」(自民党職員)ことが影響しているのは明らかだ。広島3区の調整が難航しても、菅は最後まで口を出さなかった。
トップ同士のやりとりは、安倍時代より格段に増えている。
「2週間程度、延長する方向です。この後、記者発表します」。3日夕、菅は1都3県の緊急事態宣言を再延長する方針を決めると、すぐに公明代表・山口那津男の携帯電話を鳴らした。
頻繁に電話がかかってくるため、山口は何度か気付かず、電話を取り損ねた。最近では携帯電話を常に手放さず、寝る時も近くに置いておくようにしている。「ケミストリー(相性)が合わない」と評された安倍との関係とは対照的だ。
昨年末、後期高齢者が医療機関で支払う窓口負担を巡り、菅と公明の主張はずれた。政調会長、幹事長レベルでまとまらず、最後は菅と山口の会談で決着した。