社会や学校などでは、表向きは「男性らしさ」「女性らしさ」を押し付けられることは減りました。しかし、目に見えにくい部分には、まだまだ男性・女性という区分けが色濃く残っています。
私は現在、関西学院大学でジェンダー論を教えています。選択科目なので、女子学生が受講するイメージを持たれる方もいるかもしれませんが、受講生の40%近くが男子学生です。
毎年、最初の授業で男女混合の班に分かれ、“性別で得したこと、損をしたこと、あきらめたこと”について話し合います。
大学生にとって直近の“あきらめたこと”として挙がってくるのが、進路選択です。文学部に進学したかったのに、親から“男は将来家族を養わないといけないから”と他学部に進学するよう言われた男子学生や、実家から通える大学という条件を親から提示された女子学生もいました(※図表1)。
また、多くの子が成長過程で言われた「男なんだから稼げるようにならないと格好悪い」「男なんだからあきらめるな」「女子なのに気が利かない」「女の子は愛嬌がないとモテないわよ」という言葉にもやもやしたまま成長しています。
「らしさ」「あるべき姿」というのは、その枠にはまらない人にとっては大きなプレッシャーになります。失業が増えると男性の自殺が増えるのも、子育てがうまくいかなくなったときに母親が鬱になってしまうのも、「○○として失格」と自分を責めてしまうから。
大人になってからも大きな心理的足かせになっていきます。
まずは日常の中のちょっとした言い回しに気を付けてみてください。
「女の子なのに算数ができるのね」 「男の子だからやんちゃだね」
何げなく言ってしまいそうな言葉かもしれませんが、その文脈に性別は必要でしょうか。
子供の意識には、そうした細かな言い回しや親の言葉が刷り込まれて、勘違いをしたり、傷ついたりしたまま大人になっていきます。
子供はこのような言葉だけでなく、夫婦の関係性にも影響されて育ちます。夫が妻に炊事・洗濯・掃除を任せきりだったり、娘にだけ家事を教えて、息子には何もさせなかったりといった家庭はいまだによく見聞きします。
そんな家で育った男の子は、「あ、女の子は僕の世話をしてくれるんだ」と考えるようになってしまいますよ。
もし子供に「らしさ」の刷り込みをせずに育てたいなら、両親が対等な立場であるということを見せてやらなければいけません。
炊事、洗濯は家族全員ができるようにしましょう。生きるための基本スキルだからです。
少しでも家事を担えば、「稼ぎ」が発生しない家事労働も重要な仕事だと気づくようになります。また、母親がボランティアや社会活動に参加し、子供たちに「社会の一員」としての背中を見せてやるのもおすすめです。
現在は、ユーチューバーのkemioさんやタレントのりゅうちぇるさんが人気であることからわかるように、性の自己認識や表現の仕方も多様化しています。いろいろな人がいることを日常的に肯定してあげてください。固定観念から自由になることが、幸せな人生を歩む第一歩になるはずです。
親が子供にしておくべきなのが、性の話です。近年、東京大や千葉大、慶應義塾大といった有名大学で性暴力事件が相次いで表面化しました。
標的になった子の多くが、加害者より「偏差値の低い」とされる大学の女子学生たち。
東大生5人による強制わいせつ事件(2016年)をモチーフにした小説『彼女は頭が悪いから』(姫野カオルコ・文藝春秋)にも描かれたように、加害者側の内面には、女性を一人の人格として見ていないことや、学歴による過度なプライドがあったとされています。
「勉強ができるわが子」としての側面ばかりが褒められ続けたことと、受験のストレスから、「勉強のできる自分は特別に偉いんだ」と勘違いして生きてきてしまったのでしょう。
こうした事件は、ひとごとではありません。わが子が将来、こういった事件の加害者になる可能性はゼロではないんです。
実は日本はレイプものや痴漢ものと呼ばれる性犯罪を題材としたアダルトコンテンツが非常に多いのです(※図表2)。
スマートフォンの普及により、子供たちがこうした情報に、ダイレクトに触れることができるようになりました。また、体形などを性的に過度にデフォルメした“萌え絵”が街にあふれています。
ドラマや映画では、強引な迫り方をする男性が格好いいとされていて、これも子供たちに誤ったメッセージを伝えてしまいます。
性に関する商業的な情報はあふれているにもかかわらず、日本の学校での性教育は期待できる段階に来ていないのが現状です。
子供たちは性に対してゆがんだ認知を持ってしまいやすい環境にいると言えるでしょう。アダルトコンテンツで描かれている女性像は、『鬼滅の刃』の鬼と同レベルのフィクションであることを強調して伝えておいてほしいですね。
また、過激な情報を取り入れてしまう前に、常日頃から「これはリアルじゃない」と伝えることが重要です。あらためて性教育をしようと構えずに、日常で目に入ってくるものにどんなコメントをするか考えるだけで結果は出てきます。
「こんなに胸が強調されるのは変だよね」 「壁ドンとかこういう強引な迫り方は嫌だな」
とお母さんが伝えれば、子供も「そうか」と素直に思います。
もし、ちゃんとした性教育がしたかったら、入り口として本や絵本を発達段階に応じて読ませればいいと思います。今は海外の優れた性教育本が翻訳されていますから、親も学ぶつもりで一緒に読んでみるといいでしょう。
“セックスにはお互いの同意が必要である”という常識が抜けている子供が非常に多いです。“付き合っているんだから”“家に来たんだから”という理由で、押し切ろうとする子も多いですが、これも立派な性暴力です。男性と女性は体が違う、でも平等で対等であるということを伝えてやってください。
子供が中高生になり恋人ができたときは、二人の会話を聞いてどちらかが高圧的になっていたり、相手の言葉をさえぎって発言したりしていないかをチェックしてください。対等でない関係は、性の面からもジェンダーの面からも不健全で、いずれ子供が傷つくことになります。
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(ジェンダー・国際協力専門家 大崎 麻子 構成=土居雅美)