小池都知事にケンカを売った飲食店。“反時短営業”を続けた社長が怒りの告白

時短要請を無視する飲食店に“命令”を出したうえで過料を科すのは適法か? コロナ禍に勃発した前代未聞の法廷闘争に注目が集まっている。東京都にケンカを売って“反時短営業”を続けた飲食店の代理人が怒りの告白。

◆小池都知事にケンカを売った男

小泉純一郎首相とブッシュ大統領が会食した「権八」に、合コン会場の定番エスニック料理店「モンスーンカフェ」や「カフェ ラ・ボエム」。これらSPA!世代にもなじみ深い有名店を展開するグローバルダイニング(以下GD社)が東京都にケンカを売った。都を相手に起こした国家賠償請求訴訟だ。

その狼煙は昨年8月に上がっていた。都が飲食店に対して夜10時までの時短営業を要請するなか、GD社は長谷川耕造社長の「新型コロナウイルスに対する考え方」と題したリリースを発表。「数時間の営業時間短縮を行っても感染対策の効果は期待できない」「健康な方々で経済を回していくことが重要」と主張したうえで、「東京都からの時短要請は受けない」と宣言したのだ。

今年1月に2度目の緊急事態宣言が発令された直後にも、同社は改めて時短要請には応じないと発表。「医療崩壊とおっしゃっている国や自治体の関係者、感染症専門家の方々は何の準備もしていなかった?」と行政の怠慢にも言及した。

この間、都は時短要請を無視する飲食店の現地調査に動いていた。2000店舗の“反時短”店をリスト化し、第一弾として27店舗に時短命令を出したのが3月18日(翌19日に5店舗追加)。うち26店がGD社の運営だったことから、法廷闘争にまで発展した。

◆どれほどの勝算があるのか?

「憲法で保障されている表現の自由と法律の下での平等に違反しているんじゃないかと思いました」

提訴後の会見で長谷川社長はこう怒りを露わにしたが、どれほどの勝算があるのか? 原告の代理人を務める倉持鱗太郎弁護士は「改正特措法(新型インフルエンザ等対策特別措置法)及び、それに基づく命令の違憲・違法性が大きなテーマ」と語る。

「特措法では、感染防止のために『特に必要があると認めるときに限り』時短命令が出せると記載されています。しかし、命令が出た3月18日は、菅総理が21日をもって1都3県の緊急事態宣言を解除すると発表した日。医療体制のひっ迫度も都が目標としてきたステージ2まで下がっていた。

つまり、“特に必要がない”うえに、18~21日の4日間しか効力のない時短命令を都は出したわけです。そもそも時短要請・命令ができる特措法そのものが違憲である可能性があります。都のモニタリング会議では感染経路に占める飲食店の割合は平均5%で、接待を伴う飲食に至っては1%未満。

圧倒的に家庭内や医療・介護施設での感染が多いため立法事実からして疑わしい。営業の自由を過剰に規制しうる点でも違憲性の強い法律です」

◆「矛盾と違憲性だらけの時短命令」その理由とは

27店中26店がGD社という偏った命令に対しては、都民ファースト所属の都議からも「明らかに狙い撃ち」との批判の声が上がっていた。長谷川社長が言うように「法の下の平等に反する」と糾弾されるのも当然だ。さらに、もう一つ大きな問題点がある。

「都は計32店舗に措置命令書を送付していますが、私が知る限り、GD社に送った命令書にだけ『緊急事態措置に応じない旨を強く発信するなど、他の飲食店の20時以降の営業継続を誘発するおそれがある』という文言を入れています。情報発信を制限する点で、表現の自由への萎縮効果があるのは間違いありません。

それ以前に、『要請に応じない』と発信することを、時短命令発出の一つの根拠とするのは誤りです。都は『正当な理由がないのに要請に応じていない』と判断できたときに限り、命令を出すことができるからです。一切考慮するべきではない事項を考慮してしまっている。

百歩譲って命令を出すのなら、27店舗に絞らず全店に出すべき。矛盾と違憲性だらけの時短命令なのです」

◆3月には7.3億円の借り換えを実施

一方で、GD社には時短要請を無視するに足る「正当な理由」があった可能性がある。

最初の緊急事態宣言が発出された4月の全店売上高は前年比で85%減を記録。’19年には一店舗当たりの月次売上高はざっくり1400万円程度だが、一時は1000万円以上も減少していたことがわかる。時短で発生した損失額は明らかにされていないが、一日6万円の協力金を受け取ったところで、減収分を穴埋めできなかったのは明らかだ。

実際、同社はこの3月にも短期借入金の返済がかなわず、7億3000万円の借り換えを行っている。

「GD社は銀座、白金などの一等地にも展開しているほか、100席を超える規模の店舗も多いので、家賃負担だけで相当なもの。その店舗と一人経営のバーを一緒くたにして一律6万円の協力金を出すという措置も公平性を欠きます。

そもそも、時短要請はあくまで要請であるため、飲食店が従う法的義務はないんです。必ずしも従う必要のない要請を無視する場合には『正当な理由』が求められるという点に矛盾をはらんでいる」(同)

◆3月の月次売上高は前年同月比87%増を達成

コロナ禍では国を挙げての自粛に水を差すような行為は、しばしば炎上してきた。その典型は政治家の会食だろう。だが、今回のGD社の反時短営業と法廷闘争には多くの国民が支持を表明している。訴訟費用の支援を目的としたクラウドファンディングでは2週間で1800万円も集まった。

直接、GD社を応援する人も増えている。同社の3月の月次売上高はコロナ禍にありながら、前年同月比87%増を達成。過去最高の売り上げを記録した店舗もあったという。これにはGD社関係者も「まったく予想していなかった反響」と驚きを隠さない。

「2度目の緊急事態宣言が出された今年1月以降は、一部店舗で深夜まで満席状態が続き、入店まで2時間待ちになった日もあったようです。それだけ混雑しても、感染者はほとんど出ていない。国内でコロナの感染拡大が確認されてから1年になりますが、当社の従業員のなかで感染したのは数人。すぐに自宅療養措置をとったため、クラスターは一度も発生してません」

果たして、都の時短命令は適切だったといえるのか……? まだまだ論議を呼びそうだ。

◆呑兵衛、ナンパ師、高齢夫婦も。深酒するコロナ禍の上野

時短命令を受けたGD社以外の店とは? リストを見た都の関係者は「上野の居酒屋が多い」と話す。実際、上野はコロナ上等の異様な酒気に満ち溢れていた……。

3月31日20時、アメ横通りと並行に走る上野駅前通りに足を踏み入れると、すぐさま千鳥足のサラリーマンとすれ違った。通りの両サイドの居酒屋は、いずれも路面に並べた簡易テーブルまで満席の状態。女性が席につけば、すぐさま隣の男性が声をかけて即席の相席屋と化していた。なかには路上から「一緒に飲も!」と女性の隣席に滑り込む手慣れたナンパ師の姿も。

当然、パーテーションはなく、席の間隔は濃厚接触すれすれ。都は21時までの時短営業を要請しているが、通りの十数店は気にせず営業を続け、数店は満席を理由に客の入店を断るありさまだった。

「どこも24時までやってるから平気ですよ」

店員に時短命令を受けたらどうするのか?と尋ねても、お構いなし。自粛を続ける人々からすれば不謹慎極まりないだろうが、「上野のおかげでギリギリ稼げています」と話す”流し”の姿もあった。

とはいえ、上野全体が時短要請を無視しているわけでもない。ほかの通りは21時を過ぎると大半の明かりが消えるのだ。

「(要請を無視する)あの人たちのせいでコロナが収まらないのよ」と吐き捨てる居酒屋店員もいた。それでも人は上野の魅力に抗えない――明らかに80歳を超えた高齢夫婦が24時まで仲睦まじく飲み歩く姿を目の当たりにして、記者は得心した。

<取材・文・撮影/吉岡 俊 池垣 完(本誌)>
※週刊SPA!4月6日発売号より