万引きGメンに聞く、窃盗グループの「動作」にみる日本人/外国人の差

みなさん、こんにちは。微表情研究家の清水建二です。

前回に引き続き、微表情の実務世界をテーマに万引きを取り締まる私服保安員、通称、万引きGメンの方による微表情活用法をご紹介したいと思います。引き続き、R・Tさん(保安員歴10年・30代・男性)からお話を伺いました。今回のトピックは、万引きGメンの眼力です。

「目を見開き、周囲を警戒する動作が主に万引き犯の特徴として挙げられます。しかし、万引き犯が日本人か外国人か、万引きのリスクをどう見積もっているか、万引きの常習犯かそうでないか等によって異なります」

このようにR・Tさんは述べます。R・Tさんのこれまでの観察によると、外国人、特にベトナム・フィリピン系の万引き犯に多いようなのですが、万引きをする瞬間よりもその前の段階で、目を見開き、周囲を警戒する行動をとる頻度が、日本人の万引き犯に比べ多いということです。明確な違いということではないとのことですが、日本人の場合は、万引きする直前に周囲を警戒する行動をとるようです。

また、万引きのリスクが高いと感じているほどこの表情や行動が出やすく、リスクが低い、リスクについて認識していない場合、つまり、万引きをしているという認識がない場合、例えば、認知症の方や知的障害の方などの表情や動作には何も生じないことが多いということです(※1)。

※1 R・Tさんによれば、認知症や知的障害の程度が低い方であれば善悪の認識ができ、通常の万引き犯と同様に表情に現れるとのことです。

◆プロの万引き犯とアマチュアの万引き犯の違いとは?

リスクの見積もりの高低には万引きの常習性も関わっているとR・Tさんは説明します。特に外国人による万引きはチームで行われることが多々あるようで、チームの中にいる窃盗のプロメンバーからは万引きの兆候を捉えることが容易ではないものの、アマチュアのメンバーからほころびが生じ、万引きが行われている・行われようとしていることがわかるようです。

具体的なエピソードとして次のようなお話をして下さいました。

「電動シェイバーやイヤフォンなど5万円相当の家電を万引きしようとした2人組の外国人窃盗犯がいました。一人が見張り役で保安員がいないか確認していました。もう一人が万引き役で商品を次々と売り物のリュックに詰め込み(※2)、それをジャージコーナーの棚の裏側に隠しました(万引き犯は、レジを通さず、商品を持って店の外に出たときに捕まえる必要があるため、この時点では捕まえない)。実は、この万引き役、これまで何度も店に来て万引きを試み、一度はバックなどに商品を隠すのですが、保安員に牽制されていることに気付き(※3)、何も取らずに店を後にすることが何度かあったのです」

※2 R・Tさんによれば、外国人は現地調達をすることが多く、今回の実例も売り物のリュックの中に商品を詰め込んで持ってくという段取りだったようです。

※3 R・Tさんによれば、途中からの発見(バックに入れているところから等)の場合、捕まえる要件に満たない場合が多く、捕まえることができないそうで、この数回の万引き時も保安員の発見が遅かった為、牽制してやらせないようにしたそうです。

今回は、この万引き役の「成績」が悪いのか、新たな人物がその店舗に送り込まれ、今回は2人での犯行となったようです。待機室のR・Tさんのもとに不審な外国人がいるという連絡がR・Tさんの相方から入り、R・Tさんが売り場に駆け付け対象人物をマークしていました。

◆プロは危険度が高まるとあっさりと退く

しかし、見張り役がR・Tさんの存在に気づき動向を探ってきます。対象人物は保安員ではなく客と判断したらしく、仲間と犯行(リュックに窃取)を続行。

保安員が万引き犯の動向に目が効くように、プロの万引き犯(窃盗団)も保安員の気配に敏感なのだそうです(※4)。しかし、このとき万引き犯らは最終的には犯行を断念します。

※4 R・Tさんによれば、万引き犯は保安員の存在に敏感であり保安員の行動や特徴を落とし込んでいることは事実であり、この時もR・Tさんが売場から姿を消すまでは監視が続いたとのことです。

「ジャージコーナーにリュックを隠した後、万引き犯らは二人で店内を回り、保安員がいるかどうかの最終チェックの段階のようでした。そのとき、たまたま制服の警察官が店舗パトロールに来たため見張り役が危険と考えて犯行の中止を判断しました。アマチュアはこの判断が遅く、表情、特に目を見開く動きが現れ、なんとか持っていこうと焦り無理をしますが、プロは引き際があっさりしており、すんなりと諦めます。」

今回もアマチュアの万引き実行犯の方は無理をしようと焦り、粘りますが、プロの見張り役はあっさりと諦める選択をしたとのことです。

◆外国人万引き犯はなぜ万引き犯になったのか?―加害者側の論理

ところで、こうした外国人万引き犯のプロフィールはどのようなものなのでしょうか。R・Tさんは説明します。

「もちろん全ての外国人万引き犯に当てはまるわけではないのですが、就労ビザや留学生として来日したものの思うようにお金を稼げず、渡航のためにした借金や母国への仕送りに苦労しているという背景があるようです」

そして某ルートを通じてプロの窃盗団にスカウトされ、やむを得ず、窃盗団のメンバーになってしまうということがあるそうです。こうした「やむを得ない」万引き犯らは、一度に多額の商品を万引きし、万引きが成功するか否かは、日本人に比べて、徹底的で命がけ度合いが高く、ゆえに動揺が表情や動作に現れやすくなるのではないかとR・Tさんは解釈します。

この万引きに対する命がけ度ですが、言い換えるならば、真剣度、万引きの成否により得るものと失うものが大きい状況ですが、一見すると、こうした状況の方が慎重に万引きを実行するので、怪しい動きが非言語に出ないようにも注意を払うのではないかと思われる方もいるかも知れません。

しかし、こうした状況の方こそ、自身の意に反して非言語から真実が漏洩してしまうことは、様々な研究からわかっており、R・Tさんの解釈は科学研究の側面から見ても至極納得させられます。

さて、微表情の実務世界―万引きGメン編は次回で最終回となります。最終回の次回は、AIと万引きについてR・Tさんの見解をご紹介いたします。顔認証や動作を読み取るAIカメラが、万引き犯を検知する時代になりつつある今日、AIの問題と人間の役割とはどんなものでしょうか。ご期待ください。

【清水建二】

株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役・防衛省講師。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16・19」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『ビジネスに効く 表情のつくり方』(イースト・プレス)、『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。