「地下で何が…」農地や道路に丸い穴11か所

山口県美祢市内で陥没が相次いでいる。昨年1月以降、少なくとも農地や道路など11か所で確認され、うち7か所は伊佐地域に集中している。市内にはカルスト台地・秋吉台に代表される石灰質の岩盤が広がっており、陥没の原因として地質的な影響を指摘する声も上がる。(後藤敬人)

今月上旬、伊佐地域の中心部を流れる伊佐川沿いの休耕田には、円形の穴が開き、周囲は人が立ち入らないようロープが張られていた。直径約3メートル、深さ約1・5メートル。近くに住む70歳代の女性の話では、今年に入って見つかった。
市によると、確認された陥没は、伊佐地域を中心に農地9か所、市道1か所、空き地1か所。伊佐地域ではコンクリート製の床にひびが入ったり、石垣と塀の間に隙間が生じたりした家もあるという。女性は「地下で何が起こっているのか……」と眉根を寄せた。

このような状況を受け、県と市は3月、国道や県道、市道の地下をレーダーを用いて陥没につながる空洞がないか調査を始めた。これまでに計約8・2キロを調べ、市内19か所で異常を感知したが、実際に掘ってみると、目立った空洞は確認されなかった。
市は、間もなく田植えなど農繁期に入り、生産者が田畑に出入りする機会が増えることから、伊佐地域にある農地についても調査を進める方針。生産者の協力を求めた上で、5月末までに完了し、農作業の安全を確保したい考えだ。
また、市は陥没した農地を修復するため費用の半額を補助する助成制度があることもPRし、陥没被害を受けた所有者に活用を呼びかけている。一方で、宅地などに関する支援制度は現時点ではないという。

陥没の原因は何なのか――。鍾乳洞調査を専門とする市教育委員会文化財保護課の村上崇史・特別専門員(44)は、「空洞内部を満たしていた地下水が変動した影響で、上の土砂が沈み込んで陥没ができたのではないか」と推測する。
村上さんによると、石灰質の岩盤は水による浸食で空洞ができやすい。空洞は通常、地下水で満たされて安定しているが、雨が降らない時期が長く続くなどして地下水の水位が下がると、地盤の弱い部分が崩落する可能性があるという。
ただ、市は住宅などの私有地が多くて様々な制約があり、多額の費用が必要なため、原因究明に向けた調査は難しいとの認識を示す。
陥没問題を取りまとめている市建設課は「石灰質の地盤が原因なら止めるすべはない。陥没につながる空洞の早期発見など、できることをやっていく」と話す。
「把握・分析し予測必要」…東大教授

陥没は自然現象を原因としたものや、人為的な理由で生じるものがあり、全国各地で起きている。
発生から5年がたった熊本地震では、熊本県阿蘇市で地盤が帯状に陥没する現象が発生。東京電機大などの調査チームは、泥などが

堆積
( たいせき ) した水分の多い層が地震で不安定化し、一部が陥没した可能性を指摘した。
東京都調布市では昨秋以降、道路の陥没や地中の空洞発見が相次いでいる。地下約47メートル付近で東京外郭環状道路のトンネル工事が進められており、東日本高速道路が設置した有識者委員会は工事が原因と認定した。
2016年には、福岡市のJR博多駅近くの市営地下鉄の延伸工事で、地表の市道部分が幅約27メートル、長さ約30メートル、深さ約15メートルにわたって陥没。トンネル上部の岩盤層が想定より薄かったことなどが原因とされた。
東京大生産技術研究所の桑野玲子教授(地盤工学)は「陥没に至るまでにはある程度、時間的猶予がある。兆候を把握し、分析することで地下の状態を予測する必要がある」と指摘する。