単なる失言ではなかったようだ。山梨県の長崎幸太郎知事が19日、新型コロナウイルス感染防止策を説明する臨時会見で「五輪の方が命より大切というのはあり得ない。感染状況が深刻ならやってはいけない」と言ってのけ、“開催ありき”に苦言を呈した。
発言は、先週15日に自民党の二階幹事長による見解を受けたもの。二階氏は番組収録で「これ以上無理だということだったら、すぱっとやめないといけない」と五輪中止に言及。直後に〈何が何でも開催するのかと問われれば、それは違うという意味で発言した>などと釈明文書を発表したため、「うっかり失言」のような報道も目立った。
19日も二階氏は会見で「開催をやめることに重点を置いて言ったわけではない」と改めて弁解したが、長崎知事は「極めて常識的だ」と二階を持ち上げてみせた。
「長崎氏は二階氏の“一の子分”と言っても過言ではない。2017年の衆院選で落選後も、二階氏に『幹事長政策補佐』のポストを用意され、2年前の知事選での全面支援に恩義を感じている。二階氏肝いりの『Go To イート』事業を今なお県内限定で継続していることからも、関係性の深さが伺えます」(自民党関係者)
長崎知事の発言は二階氏の意を汲んだに違いない。本人が言えば角が立つから、配下の知事に言わせたようにも映る。しかも山梨は五輪競技の開催地(自転車競技ロードレース)。他県のトップとは発言の重みが違う。「老獪」な二階氏はなぜ、五輪中止に踏み込むのか。
「唐突な五輪批判は、菅政権の対中政策への牽制かも知れません。二階氏は自民党きっての親中派。欧米諸国と同様、人権侵害に関与した外国の当局者に制裁を科す国内法整備を目指す党内の動きに“待った”をかけています。中国への制裁を最小限にとどめる駆け引きに五輪を利用しているのではないでしょうか」(高千穂大教授の五野井郁夫氏=国際政治学)
政権・与党は御年82歳の長老に振り回されっぱなしだ。