脱線事故16年 遺族ら静かに祈り JR西に「他人任せにしないで」

乗客106人と運転士が死亡し、562人が重軽傷を負ったJR福知山線脱線事故は25日、発生から16年を迎えた。新型コロナウイルスの感染拡大状況を考慮し、JR西日本主催の追悼慰霊式は2020年と同様に中止になった。兵庫県尼崎市の事故現場にある慰霊施設「祈りの杜(もり)」には、遺族や被害者らが密集を避けるために時間をずらして訪れ、静かに祈りをささげた。
祈りの杜では午前7時20分ごろ、JR西の幹部たちが献花した。遺族男性の「慰霊のことば」が代読され、JR西の社員に「他人任せにしない」ことを求めるメッセージが読み上げられた。長谷川一明社長は取材に「反省とともに社員、役員の一人一人が安全を担っていく。加害企業として、この決意は世代を超えて引き継いでいく」と述べた。
事故発生時刻(午前9時18分)の直前には、快速電車が現場カーブを通過した。車内では多くの乗客が手を合わせて目を閉じ、涙ぐむ人もいた。祈りの杜を訪れた遺族の上田弘志さん(66)=神戸市北区=は「可愛い孫が1歳になった。悲しみだけではない、いつもと違った気持ちで(亡くなった次男に)献花ができた」と語った。
JR西、初めてオンライン中継
JR西は今回、祈りの杜の様子を初めてオンライン中継し、希望した遺族と負傷者計85組に配信した。事故で長女早織さん(当時23歳)を亡くした大森重美さん(72)は、神戸市北区の自宅からスマートフォンで視聴した。「式の中止は残念だが、遺族も高齢化し、感染リスクを考えるとやむを得ない。安全対策のマンネリ化や事故の未然防止策について語った『慰霊のことば』に共感した」と話した。【高橋昌紀、稲田加代、中村清雅】