新型コロナウイルスとの戦いの1年余りを振り返ると、日本経済は「数%のマイナス成長」と欧米並みで、「プラス成長」を確保した中国との国力の差はまた開いた。
一方、コロナの感染者数や死者は欧米の20分の1ほどで、死因を問わない死亡者数も11年ぶりに減少した。増えたのは「老衰」と「自殺」で、特に「女性の自殺」が増えている。統計はないが、飲食業関係が多いとも言われる。孤独も人々の心を蝕(むしば)んでいる。
親に1年以上も会えない人が続出するなど、「家族の分断」も深刻だ。海外にいる日本人は、行き当たりばったりで、きめ細かさに欠ける入国規制で弱り果てている。在日外国人も犠牲者だ。コロナがいくら怖いからと言って、経済や人の交流を犠牲にし過ぎである。医者に「リスクがある」と言われても、仕事や楽しみをすべてやめるわけでないだろう。国全体でも、もう少し工夫が欲しい。
こうした時、総合的な政策展開で効果的に対処するのは政治家の仕事だ。経済や人々の生活への悪影響が少なく感染防止効果が大きい方策を選び、「マイナンバーカードの取得義務化」など、AI化で禍を転じて福と為し、慣習や既得権益にとらわれずに「医療体制を改革」をすべきだ。
ところが、感染対策の先生方や医師会の幹部らは、経済社会への影響などお構いなしに、「感染を減らすだけの観点」から押し付けがましくものを言っている。ワイドショーなども恐怖を煽って、視聴率を上げようとする。年末年始、普段通りに休んだ医師らは、「医療崩壊回避のために非常事態宣言だ」「帰省はするな」と騒いだ。
今回の非常事態宣言も、ゴールデンウイーク中、お医者さんが予定通りに休むためかといいたくなる。
世間では、「開業医・民間病院長主体の医師会が悪い」という人がいるが、私は日本の医療にはコンビニ的な便利さがあって、普段は長所が多いと思う。だが、コロナのような非常事態になれば、公的医療中心の体制の方が機動性がある。
ならば、医師会などは、現在の医療体制を守るためにも、従来の仕事を犠牲にしてでも、非常時対応に協力すべきなのだが、諸外国の医師に比べて、人ごとのように振る舞っている。一般国民に要求するばかりで、自分たちはマイペースだ。
日本社会ではありがちなのだが、現場にたまたま放り込まれた医療関係者は、逃げずに献身的に頑張っている。だが、欧米ではコロナ治療の最前線に志願する医師が多く、多くの医療関係者が亡くなったほどで、医療界上げてやれることはすべてして事態を食い止めた。
そして、やはり大問題といえるのが、日本では「医師独占領域(=医師しかできないこと)」が大きいことなのだが、それは次回論じる。本来は、こういう旧弊の改革こそ、「医系技官」の腕の見せどころのはずなのだが…。
■八幡和郎(やわた・かずお) 1951年、滋賀県生まれ。東大法学部卒業後、通産省入省。フランス国立行政学院(ENA)留学。大臣官房情報管理課長、国土庁長官官房参事官などを歴任し、退官。作家、評論家として新聞やテレビで活躍。徳島文理大学教授。著書に『歴史の定説100の嘘と誤解 世界と日本の常識に挑む』(扶桑社新書)、『日本人のための日中韓興亡史』(さくら舎)、『日本人がコロナ戦争の勝者となる条件』(ワニブックス)など多数。