日本政府が五輪関係者に入国特権 「14日間の隔離」ルールは形骸化

新型コロナウイルス感染拡大の深刻化で国民に東京五輪への不安と中止論が一段と高まる中、菅義偉・首相は「安心、安全な大会を実現するには感染対策が極めて重要だ」とあくまで強行開催の姿勢を変えようとしない。だが、その肝心な感染対策で、日本政府が入国する五輪関係者に「特権」を与えていることはほとんど知られていない。
政府は欧米諸国やインドなど世界150か国以上からの外国人の入国を禁止しており、邦人帰国者と「特段の事情がある場合」として入国を認められた外国人には、「14日間の待機」を義務づけている。「しかし」と東京都の五輪関係者が語る。
「五輪関係の外国人の来日については、内閣官房と組織委員会、東京都の協議で『アスリート用東京オリパラ準備トラック』というルールを定めている。内容は、『オリンピックに関連して国内で開催される国際大会に出場する選手等に関し、必要な防疫上の措置を講じた上で入国を認め、入国後14日間の自宅待機期間中の活動を可能とする』というものです。
対象は選手やコーチだけでなく、大会の準備・運営上必要な契約関係者、技術者などを含みます。必要な感染予防を行なえば、ホテルと会場などの往復であれば入国後14日間の待機期間中も隔離を免ずるものです」
東京五輪の会場は30か所以上、現在、各会場で最終の準備が急ピッチで進められ、多くの外国人関係者が来日している。準備に携わる日本人スタッフからは、隔離期間が十分でない外国人技術スタッフなどとの共同作業を不安視する声が上がっている。
五輪問題に詳しい作家の本間龍氏が語る。
「五輪の各会場では4月から各種機器やシステムが正常に作動するか確認するテクニカルリハーサルが行なわれ、海外から関係するスポンサー企業のスタッフが入国している。彼らの隔離期間はわずか3日間で、その後は現場で作業を手伝ったという情報がある。組織委の日本人スタッフは共同作業で感染が心配だと抗議したそうです。
そこでようやく感染が広がらないように外国人技術者と日本人スタッフの導線を分け、外国人だけの作業場を設けたり、トイレも別々にすることになった。五輪には5万~6万人の大会関係者が来日する。選手は競技に専念してすぐ帰国するでしょうが、五輪スポンサー関係者の国内での移動をどこまで制限できるか疑問です」
こうした五輪関係者の「入国特権」について出入国在留管理庁にぶつけると、
「『特段の事情』による入国は、いわゆる例外的入国です。関係する省庁が該当するかを決めています。14日間の待機、隔離を軽減することも特例としてはありますが、五輪など公益性が高い場合でも、受け入れ団体がしっかりその入国者の日本国内での行動を管理することができることを示せなければ、認められません。現状、厚労省は特段の入国に関する判断は非常に厳しくしている。監督官庁が『特段の事情がある』と入国を認めても、厚労省が認めないことも多い」(審判課)という。
ではその厚労省はどういう根拠で五輪関係者の外国人を「安全」と判断しているのか。
「厚労省は入国して以降の部分を担当しており、特段の事情による入国の判断については所管外で申し上げられません」(検疫所業務管理室)
堂々めぐりで、どの役所が五輪入国者に関する「安心、安全」の責任を負うのかさえ曖昧なのだ。
※週刊ポスト2021年5月28日号