「9歳男児」が車を運転、女性に軽傷負わす…親はどんな責任を問われる?

岩手県盛岡市内の国道で6月5日に発生した交通事故で、停止中の軽乗用車に衝突した乗用車を運転していたのが「9歳の男児」だったと報じられた。 報道によると、事故前に「子どもが車を運転している」との110番を受けた岩手県警が、乗用車を複数台のパトカーで追跡していたところ、時速20~30キロで走行していた乗用車が赤信号で停止していた前方の軽乗用車に衝突。軽乗用車を運転していた女性が軽傷を負ったという。 乗用車を運転していた男児は、自宅で親が目を離していた間に、鍵を持って車に乗り込んだようだ。自身も軽傷を負ったが、意識はあるという。 運転技術を習得していない9歳児が車を走らせて事故を起こせば、死亡事故になる可能性も十分あった。被害者や男児が軽傷で済んだのは不幸中の幸いといえるだろう。 もちろん、交通事故を起こした以上、責任を取る必要がある。しかし、9歳の加害者に交通事故の責任を問うことはできるのだろうか。また、子どもを監督する保護者の責任はどうなるのだろうか。本間久雄弁護士に聞いた。 ●責任なくても、福祉的措置はありうる 9歳児が交通事故の責任を負うことはあるのでしょうか。 まず、民事上の責任について説明します。 車の運転を誤って、物を壊したり、人に怪我を負わせたりした場合、車の運転者には不法行為責任(民法709条)が成立し、壊した物の修理代や怪我をした人の治療費、休業損害、慰謝料のほか、後遺障害が残ったときは逸失利益も賠償しなければなりません。 ただ、民法は、「未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない」と定めています(712条)。 「自己の行為の責任を弁識するに足りる知能」があるか否かについては、問題となっている行為の法的責任を認識できるだけの知的能力を当該行為者が備えていたかどうかが具体的に検討されることになりますが、これまでの裁判例からすると、その分かれ目は「11~13歳」の間ぐらいに見うけられます。 今回のケースについては、車を運転していたのが「9歳の男児」だったことから、おそらく男児は民事上の責任(不法行為責任)を負わないものと思われます。 刑事上の責任についてはどうでしょうか。 車を無免許で運転して人に怪我を負わせていることから、一般的には、無免許過失運転致傷罪(自動車運転処罰法5条、6条4項、10年以下の懲役)が成立するものと思われます。
岩手県盛岡市内の国道で6月5日に発生した交通事故で、停止中の軽乗用車に衝突した乗用車を運転していたのが「9歳の男児」だったと報じられた。
報道によると、事故前に「子どもが車を運転している」との110番を受けた岩手県警が、乗用車を複数台のパトカーで追跡していたところ、時速20~30キロで走行していた乗用車が赤信号で停止していた前方の軽乗用車に衝突。軽乗用車を運転していた女性が軽傷を負ったという。
乗用車を運転していた男児は、自宅で親が目を離していた間に、鍵を持って車に乗り込んだようだ。自身も軽傷を負ったが、意識はあるという。
運転技術を習得していない9歳児が車を走らせて事故を起こせば、死亡事故になる可能性も十分あった。被害者や男児が軽傷で済んだのは不幸中の幸いといえるだろう。
もちろん、交通事故を起こした以上、責任を取る必要がある。しかし、9歳の加害者に交通事故の責任を問うことはできるのだろうか。また、子どもを監督する保護者の責任はどうなるのだろうか。本間久雄弁護士に聞いた。
9歳児が交通事故の責任を負うことはあるのでしょうか。
まず、民事上の責任について説明します。
車の運転を誤って、物を壊したり、人に怪我を負わせたりした場合、車の運転者には不法行為責任(民法709条)が成立し、壊した物の修理代や怪我をした人の治療費、休業損害、慰謝料のほか、後遺障害が残ったときは逸失利益も賠償しなければなりません。
ただ、民法は、「未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない」と定めています(712条)。
「自己の行為の責任を弁識するに足りる知能」があるか否かについては、問題となっている行為の法的責任を認識できるだけの知的能力を当該行為者が備えていたかどうかが具体的に検討されることになりますが、これまでの裁判例からすると、その分かれ目は「11~13歳」の間ぐらいに見うけられます。
今回のケースについては、車を運転していたのが「9歳の男児」だったことから、おそらく男児は民事上の責任(不法行為責任)を負わないものと思われます。
刑事上の責任についてはどうでしょうか。
車を無免許で運転して人に怪我を負わせていることから、一般的には、無免許過失運転致傷罪(自動車運転処罰法5条、6条4項、10年以下の懲役)が成立するものと思われます。