警察などの捜査機関に逮捕された容疑者の身体を拘束する裁判所の「勾留」処分に不服を申し立てた国選弁護人に対し、大阪弁護士会は4月から、1件当たり最大4万円の報酬を支払う制度の運用を始めた。弁護士会がこうした申し立てに報酬を支払うことは全国的にも珍しい。容疑者が罪を認めない否認事件の勾留期間が長引く傾向にある中、いわゆる「人質司法」のあり方に一石を投じる一方で、報酬目的の準抗告が乱発される恐れも懸念される。
4万円の成功報酬
検察官は刑事訴訟法上の規定に従い、逮捕、送検された容疑者の身柄を拘束し続けるため、裁判所に勾留を請求することができる。
罪を犯したとされる相当の理由があることや、罪証隠滅や逃亡の恐れがあることが要件。延長が認められれば、送検後の勾留決定から最大20日間にわたり、強制的な取り調べが可能だ。
同法は、捜査機関が犯罪を調べる際、逮捕や勾留といった強制捜査ではなく、原則相手の同意に基づく任意捜査を求めている。容疑者の弁護人は、逮捕後の勾留が不当であれば、釈放を求める準抗告ができる。
大阪弁護士会は、容疑者の経済的事情などを背景に国が選んだ国選弁護人がこうした準抗告を申し立てた場合に1万円、それが認められるとさらに3万円の報酬を支払う制度を4月に開始した。
同会は会員が納める会費を積み立て、1500万円の予算を確保。申請は1人5回まで可能で、起訴後の保釈請求については報酬の対象にならない。
制度創設は初
令和元年の検察統計によると、大阪地検管内で検察官が勾留請求をした件数は7265件に上るが、裁判所は全体の9割を超える6770件について認めている。大阪弁護士会によると、勾留請求が却下された495件のうち、準抗告の申し立てによるものは約220件にとどまるという。
こうした現状について、大阪弁護士会刑事弁護委員会副委員長の森直也弁護士は、準抗告に取り組む弁護人側の意識の低さを指摘。「事件によっては弁護人側でさえ、『勾留されてもいいのでは』と考える人もいる」と話し、準抗告に対する意識の改善を図るためにも、今回の制度創設に至ったと明かす。
愛知県弁護士会が一昨年に、試験的に同様の報酬制度を設けた例はあったが、本格的に始めたのは大阪弁護士会が初という。
冷ややかな視線も
ただ、こうした取り組みに法曹界全体が賛同に傾いているわけではない。
大阪弁護士会所属のある弁護士は、特に重大事件などでは「勾留がやむを得ない場合もある」と説明。「そもそも弁護人それぞれの考え方も違う中で、報酬費用を会費から捻出するのはおかしい」と話しており、同会内でも否定的な意見はあるようだ。
検察内部も冷ややかな視線を向けている。ある検察幹部は「必要に応じて容疑者の勾留を請求している。準抗告が増えたところで、こちらは従来通りの対応を続ける」と話す。
準抗告が乱発されれば、それに伴って釈放の増加も予想される。ただ別の検察幹部は、裁判所が報酬目的の準抗告と判断し、逆効果になる可能性もあると指摘。その上で、「弁護士会側のある種のキャンペーンに、裁判所がなびくことはあってはならない」と力説した。(森西勇太)