学校法人「森友学園」への国有地売却を巡る財務省の決裁文書改ざん問題で、国は自殺した近畿財務局職員、赤木俊夫さん(当時54歳)が改ざんの経緯をまとめた「赤木ファイル」を近く開示する。財務省ぐるみで繰り返された改ざんの具体的な指示内容や理由が明らかになる可能性がある。国が存在するかどうかも長く明らかにしなかったこのファイルに、赤木さんは何を残したのか。
「夫が苦しみながら残した記録を全て明らかにしてほしい」。妻の雅子さん(50)は毎日新聞の取材にこう訴える。
雅子さんは2020年3月、国などに損害賠償を求めて大阪地裁に提訴。改ざんが発覚した直後の18年3月に命を絶った夫の精神的苦痛の立証には、ファイルの開示が不可欠だと訴えてきた。存否すら明らかにできないとしてきた国は21年5月、裁判所の要請に応じ存在を一転して認め、6月23日の口頭弁論までに開示する方針を示している。
国などによると、ファイルには改ざんの過程が時系列に記された文書に加え、本省と財務局との間で交わされたメールや添付資料もとじられている。赤木さんは生前、大量の資料を収納できる「ドッチファイル」に整理していたことを妻に伝えていたが、国は具体的な分量を明かしていない。
「メールと添付資料に注目」
雅子さんの代理人を務める生越照幸弁護士(大阪弁護士会)が注目しているのが、メールとその添付資料だ。赤木さんが使っていた手帳には、所属する部署のパソコンや記録媒体から改ざんに関するメールをコピーしていたことをうかがわせる記述が確認された。ファイルには赤木さん宛てのメールにとどまらず、本省と財務局との詳細なやり取りが書かれたものも含まれているとみられるからだ。
財務省は18年6月の調査報告書で、大まかな改ざんの経緯を公表した。安倍晋三首相(当時)は17年2月、森友学園への国有地売却問題について「関与していれば首相も国会議員も辞める」と国会で答弁。妻昭恵氏らの名前が書かれた売却の決裁文書について、佐川宣寿理財局長(同)が外に出すべきではないと反応した。本省から指示を受けた財務局が連携し、改ざんが繰り返された。
詳細なやり取りが明らかに?
報告書は指示の時期や伝達ルートに触れているが、改ざんに至る具体的なやり取りは明らかにしなかった。生越弁護士は「メールの内容によっては改ざんの全容が明らかになるのではないか」と期待する。
一方、赤木さんが残した「手記」でも、改ざんの経緯が一部分かっている。本省から17年の2月下旬と3月上旬に数回の指示があり、赤木さんらが強く反発。上司は「(改ざんに)応じるな」と話したが、本省幹部の電話で方針転換したとされる。ファイルの開示で財務局の詳細な反発状況も判明する可能性がある。
雅子さんは「夫は誰からどんな指示で改ざんを強いられ、どう抵抗したのか。それが分かれば、夫の無念を晴らせる」と語った。
開示の範囲も焦点
赤木ファイルの内容はどこまで開示されるのか。赤木俊夫さんの妻側は全面的な開示を求めているが、その範囲も焦点になる。
国は5月に大阪地裁に提出した書面で、文書には行政内部のやり取りなど職務上の秘密や改ざんに関係のない職員の情報が含まれているとしてマスキング処理(黒塗り)の必要性に言及。ただ、「処理の範囲はできる限り狭いものとする」と説明する。
国有地取引に端を発した決裁文書の改ざん問題を巡っては、財務省は調査資料の中で政治家や職員の名前を公表した経緯がある。妻側は国に対し、「少なくとも一連の資料と同じように個人名は開示してほしい」と訴えている。仮に開示範囲で双方が折り合わなかった場合、裁判官が処理前の文書を閲覧して妥当性を判断する「インカメラ」と呼ばれる手続きに入る可能性がある。
近畿大の渡辺森児教授(民事訴訟法)は「裁判所は今回の訴訟の結論を導く上で、赤木さんの死と改ざんの因果関係を争点の一つに考えているとみられる。開示されたファイルから、赤木さんが改ざんを強要された様子ややり取りの記述が分かるかどうかを重視するのではないか」と語った。【松本紫帆】