「安倍先生との信頼関係は崩れていません」 稲田朋美氏が産経新聞に“歪曲記事”と怒った理由

〈歪曲記事が与えた影響は大きい。強く非難する〉

5月31日に自身のツイッターにこう記したのは、稲田朋美衆議院議員(62)。怒りの矛先を向けたのは、産経新聞だった。
稲田氏にとって産経は“産みの親”
実は、稲田氏と産経の縁は深い。
「弁護士出身の稲田氏は結婚後、専業主婦に。夫が愛読していた産経新聞や、産経が発行する月刊誌『正論』に投稿を始めた。日中戦争時に日本兵が南京で行ったと報じられた『百人斬り』は虚偽だとする訴訟活動に参加。2005年に稲田氏の講演を聞いた安倍晋三氏に誘われ、その年の総選挙で初当選し、政界入りしたのです」(自民党関係者)
稲田氏も講演で「産経新聞がなかったら、たぶん政治家になっていなかった」と語ったほど。いわば産経は“産みの親”にあたる。
憲法改正などを声高に主張する稲田氏を秘蔵っ子として防衛大臣や政調会長などの要職に起用してきたのが、安倍氏だった。ただ、最近はこう漏らしている。
「稲田さんはなんでああなっちゃったんだろうね……」
稲田氏は「宗旨変え」したのか
近年、選択的夫婦別姓や女性活躍の推進などリベラル色の強い政策に注力する稲田氏。自民党特命委員会の委員長を務め、超党派議連でもLGBT理解増進法案の交渉役を担い、今国会での成立を目指してきた。
そんな矢先、5月27日付の産経に掲載されたのが、阿比留瑠比・論説委員兼政治部編集委員による「極言御免」というコラム。自民党案はLGBTの理解増進を目指すものだったが、与野党協議を受け「差別は許されない」という文言が追加された結果「差別禁止法案」になり、訴訟の乱発を招くという反論が保守派から上がっている。07年~08年に同様の懸念のある人権擁護法案に反対していた稲田氏は「宗旨変え」したのか――という内容だ。
稲田氏に話を聞いた。
「安倍先生との信頼関係は崩れていません」
「記事は誤解に基づいているんです。LGBTには政調会長時代から取り組んでいて『宗旨変え』ではありません。保守だからこそ多様性を認めるべきだと思う。今も人権擁護法案に反対です。立ち入り調査など強い措置をとれる人権擁護法案と、LGBT法案は全く違う。差別は許されないという文言はあくまで立法趣旨で、法律の効果としては変わらない」
産経の記事の影響は大きかったという。
「私の後援会は産経を読んでいる人が多いので『やめる』と言ってきた人がすごくいました。また、党の政策審議会で慎重派の人が記事のコピーを配った」(同前)
自民党内の反対が根強く、5月28日に法案は提出が見送りとなった。
記事を書いた阿比留氏は安倍氏と近しい記者で、周囲にこう嘆いているという。
「コロナ禍などで大変な中で、党内を二分する議論に固執する稲田さんは大局観がない。反対派の懸念に正面から向き合わず、調整能力にも欠ける。安倍さんは稲田さんを総理候補として見込んで防衛相にしたが、全く違う方向にいった」
産経新聞に稲田氏の批判について見解を尋ねると、「当該ツイッターについては関知しておりません」。
保守派との溝が深まる稲田氏。安倍氏との今の関係について聞くと、
「昨日も1時間話しました。その前の部会の時も1時間話し、電話でも話しています。安倍先生も慎重な考え方で、心配してアドバイスをされることはある。この問題については考え方が違うかもしれないけど、信頼関係は崩れていません」
稲田氏は、産経新聞に反論を続けていくという。
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2021年6月17日号)