ネズミの仲間で南米原産のヌートリアが、鳥取県内で勢力を広めている。1998年度に60頭だった年間捕獲頭数は2015~19年度に679~1308頭に達し、市街地の川を泳ぐ姿も目撃されている。仕草の愛らしい草食性動物だが、生態系への影響が懸念される外来種だ。農作物被害も報告されており、県は見かけたら市町村に通報するよう呼び掛けている。
6月中旬、鳥取市街地の袋川に架かる橋。川辺に目を落とすと、茶色の毛に覆われた動物が草むらにいた。犬にしては動きが緩慢で、猫ならば苦手なはずの水にぬれている。沿道を走って近づくと、ネズミに似た横顔が確認できた。記者に慌てる様子もなく、面倒くさそうに濁った川に飛び込むと、長いしっぽをゆらゆらさせて泳いでいった。
「特徴的な前歯が写っていませんが、おそらくヌートリアでしょう」。スマートフォンで撮影したピンボケの一葉を見せると、県鳥獣対策センターの西信介副所長が言った。
ヌートリアの成獣はしっぽを除く頭胴長が50~70センチ、体重は6~9キロ。特徴的なオレンジ色の前歯は上下の顎(あご)に計4本が生え、長さは5センチを超えることもある。良質な毛皮を軍用の防寒具に加工するため輸入されたが、太平洋戦争の終結とともに需要が減り、飼育放棄された個体が西日本を中心に定着した。
地上での緊張感に乏しいたたずまいは日曜日のおとうさんのようで憎めないが、人為的に輸入されたヌートリアは、外来生物法で捕獲・処分の対象となる「特定外来生物」に指定されている。水辺植物の食害による生態系への悪影響や農作物被害をもたらすからだ。
このうち農作物は、ほぼ全域に分布する県内でもイネやブロッコリーなどの被害が問題となっている。15~19年度の年間被害額は123万~16万円だが、冬に川が凍ると個体数が減る傾向にあり、過去には1000万円を超えた年度もあった。
被害農家は田畑をトタンで囲むなどして対策を講じ、県と市町村は捕獲従事者や狩猟免許の所持者に1頭当たり3000円の奨励金を出して捕獲を促しているが、繁殖力の高さに手を焼いている。天敵が限られているうえ1年に複数回、一度に平均で6、7頭を出産するだけに、被害農家はいたちごっこならぬ“ヌートリアごっこ”に頭を悩ませている。
記者が袋川で目撃したのは、日が落ちる1時間ほど前だった。西副所長は「ヌートリアは夜行性です。その時間に現れたのなら、周囲にそれなりの数がいるかもしれません」とみる。性格は比較的温厚というが、鋭い前歯があるので触れるのは危険だ。県では市町村に捕獲の権限があり、西副所長は「珍しい生き物と思うかもしれませんが、本来なら日本にいてはならない動物です。見かけたら市町村に通報を」と話す。【平川哲也】