原告「救済まだ済んでない」 B型肝炎訴訟、基本合意10年

集団予防接種の注射器の使い回しを巡るB型肝炎訴訟で、国と感染被害者の間で被害救済のための和解基本合意が成立してから28日で10年がたつ。しかし全国に40万人いると推計される被害者の救済はまだ途上で、全国B型肝炎訴訟北陸原告団代表の川上ゆきえさん(45)=石川県白山市、仮名=は「患者の掘り起こしや、国へのさらなる支援の要望などやるべきことはまだたくさんある」と話す。
川上さんは高校1年生の時、高熱が続き血液検査を受けた。それ以降、毎月のように通院していたが病名は知らされず、県外の短大に進学すると通院することはなくなった。卒業後、金沢に戻り23歳で妊娠。検査でB型肝炎の感染を知った。幸い2人の子供はともに母子感染せず、ワクチンを接種したが、自身はどんな病気か分からず、治療などをしないまま時が流れた。
2009年、倦怠(けんたい)感が続き、医師から「慢性B型肝炎に進行している。肝硬変、肝がんに進行する可能性もある」と告げられた。薬を服用し始めて数カ月後、薬の説明書に「奇形児が生まれる可能性がある」と書かれているのを見つけた。「私が3姉妹なので3人の子供がほしかった。きちんと説明があれば……」。3人目の子供は諦めざるを得なかった。
その頃、国を相手に起こす損害賠償訴訟のことを新聞で知り「自分の病気も国の責任かも」と思い、原告団に加わった。集団接種を受けさせた自分のせいだと責める母親に「あなたのせいではない」ということを証明したいという思いもあった。自身は12年に国と和解し、基本合意に基づく給付金が支払われたが、長生きした時のことを考えると、1カ月1万円の薬代や入院時の医療費などの費用は膨大になる。「金額には納得していないけど和解しないとお金がもらえないから」。複雑な心境だった。
現在は北陸原告団代表として学生らに被害を伝える講義や、検査を呼びかける啓発などさまざまな活動を行う。「胸を張って活動している」と言うが、「近くにいると感染する」との偏見や家族らへの差別を恐れ、実名は明かしていない。「悪いことをしているわけではないけど、一生言えないかな」
基本合意から10年を経ても活動を続けるのは、思うように救済が進まないことへの危機感がある。厚生労働省によると、21年1月末現在で提訴した人は約8万5000人、和解手続きを終えた人は約6万8000人で推計被害者の2割弱にとどまる。現在の救済措置は来年1月までの時限法のため、被害者の掘り起こしは喫緊の課題だ。
川上さんは一緒に集団予防接種を受けたであろう同年代の患者がもっといてもいいはずだとして「年齢が上がるほど、(和解に必要な)当時のカルテなどの証拠集めが難しくなる。早めに検査を受けるに越したことはない」と訴える。そして「少しでも心配があれば、まず相談してほしい」と呼びかける。「基本合意で解決したと思われるかもしれないが、救済はまだ済んでおらず、昔の出来事ではない。忘れないでほしい」と力を込めた。
全国B型肝炎訴訟弁護団は、7月4日まで全国一斉の無料電話相談を行っている。午前10時から午後5時。連絡先は(0120・151・701)。【井手千夏】
B型肝炎
血液や体液を介して感染するウイルス性の肝臓病。進行すれば、肝硬変や肝がんになることもある。1948年~88年の集団予防接種で注射器が使い回され、全国で40万人以上が感染したとされる。2011年6月、国は責任を認め、和解条件についてB型肝炎訴訟の原告・弁護団と基本合意した。予防接種が原因とされれば裁判で和解、国が給付金を支払う。