“優秀な営業”と“サギ師”の共通点…手口が巧妙化するなか一貫して使われ続ける「会話のセオリー」とは から続く
2020年度の特殊サギ被害総額は約227億8000万円。警察の取り締まりをはじめとした対策によって、年々被害総額は減少しているものの、深刻な状況はいまだ続いている。
今でも被害が多数報告されているサギのひとつが「ギャンブル系」のサギだ。ここでは、『 サギ師が使う交渉に絶対負けない悪魔のロジック術 』(イースト新書Q)の一部を抜粋し、著者の多田文明氏のもとに届いたスパムメールに騙されてみてわかったサギ師たちの手口について紹介する。(全2回の2回目/ 前編 を読む)
◆◆◆
最初の電話で、話に乗ってくる人物を見極める
相変わらずギャンブル系のサギの被害は多いが、一時期、ロト6などの数字を選択して買える宝くじに絡むサギが急増したことがある。ご存じの方も多いと思うが、ロト6では、6個の数字がすべて当たると1等になり、理論上、1億円の配当になるというものだ。
私のもとには怪しいスパムメールがよく届く。あるとき、「ロト6の攻略情報を教える」というサイトに飛ぶようになっているメールがきた。
そこでこのサイトに、名前、電話番号を書き込み、無料会員の登録をしてみた。すると、30分もしないうちに、業者の男から電話がかかってきた。
「ご登録ありがとうございます。会員様には、ロト6抽選日のお昼までに、5等(6個の数字のうち3個が一致:理論上の当せん金額は1000円)の当せん番号をメールにて連絡いたします。ただし、当せん番号を購入した結果については、会員様のほうから翌日に必ず電話での報告をお願いします」
私が「わかりました」と答えると、男は「公益情報」なるものについて話してきた。
「公益情報とは、すでに決まっている当たり番号のことです。私どもは財団法人からこの情報を買い付けています。この情報を入手できるのは、全国でも7社しかありません。その1社が当社です」
そして業者が事前にわかっている当せん番号の情報を「買ってください」とでも言つてくるものかと思ったが、そうではなかった。男は「この話はまた機会を改めて」と言って、さっと切り上げた。
これは騙しの情報をさりげなく切り出すことで、私がこの話に乗ってくる人物かどうかを見分けるための“試験”である。私が懐疑的な姿勢を見せなかったので、業者はすぐに、5通りの「5等の予想数字」のメールを送ってきた。
2度目の電話で、当選番号の情報料金を提示
そこで、私は売り場に行き、業者の言う番号を5口分買ってみた。そして家に戻り、その夜に行われるネットのライブ中継で、抽選会の様子を見守ったが、すべてハズレた。何とも役に立たない情報である。
翌日、私が業者へ電話をすると、男は平然とこう言った。
「あなた様にはID費用として1000円を振り込んでいただきます」
無料会員であるはずなのに、金を請求するとは。本当はここで言い争いをしてもよかったが、これでは業者の手の内がわからないので、「わかりました」と言って、1000円を振り込んだ。
入金後、再び男から電話がかかってきた。
「実は、以前にお話しした公益情報(当せん番号)への参加者募集を行うことになりました」
そして、具体的な公益情報の入手方法を説明してくる。業者はひと通りの説明を終えると「今回、ご提供できる公益情報は3等(6個の数字のうち5個が一致:理論上の当せん金額は約50万円)の当せん番号で、500万円が当たります」と言い、情報料金として、150万円を払ってほしいと言ってきた。
「守秘義務」「情報漏洩」の言葉で、周囲への相談を遮断
あまりの高額に私が「無理だ」と言うものの、男は言葉を続ける。
「ただし、あなたがこの情報を受け取れるとは限りません。まず参加の申し込みをしてもらい、審査に合格したうえでの情報提供になります。万が一、情報漏えいがあると問題になるので、あなたが秘密を守れる人かどうかを確かめなければなりません。これから、申込書を送りますので、すぐに返送してください」
メールで送られてきた参加申込書には、「いかなる手段においても第三者に開示しない」といった文言があり、情報内容をネットやマスコミなどに流さないことを約束させ、誓約を破った場合「損害賠償を請求されても異議なく支払うものとする」と書かれている。
盗っ人猛々しいとはこのこと。これは申込書に名を借りた、口止め書類である。ロト6サギのような情報系サギでは、守秘義務、情報漏えいなどの言葉で、周りへ相談するのを遮断しようとしてくる。
実際に、勧誘を受けた人が守秘義務などの約束をさせられて、誰にも相談できない状態に追い込まれ、繰り返し金を請求されている。被害者は、みな第三者に相談してはいけないと思い込まされていたのだ。
“誰にも相談できない状況”に追い込む技術
たとえば、ある40代男性は4回にわたり、情報料名目で200万円以上を騙し取られた。
70代男性は、業者から「抽選前に2等(6個の数字のうち5個が一致し、さらに申込数字の残り1個がボーナス数字に一致:理論上の当せん金額は約1500万円)の当せん番号が手に入る」と電話で持ちかけられた際、業者は2等の当せん番号を伝えて、男性に翌日の新聞で確認させている。
翌朝、男性が新聞を見ると、確かに業者が言った番号が2等の当たり番号になっていたので、男性は業者を信じてしまい、8回にわたり約2700万円もの情報費用を払ってしまった。
これはネットですでにわかっている当せん番号を高齢者に教えて、当せん番号が事前にわかると信じさせて金を騙し取る、時間差を利用した手口である。
サギ師が使っている手法は、ものの見方に色眼鏡をかけさせるやり方である。
今は情報化社会である。顧客情報が流出したというニュースがたびたび取りざたされており、過去には名簿などの情報漏えいをしたとして逮捕される事案もあり、多くの人が個人情報の取り扱いに敏感になっている。
もし自分が漏えいに加担をしたなら、大きな罪が伴うという意識を持っている。そこでサギ師らは、私たちに「情報は秘匿するもの」という眼鏡を心にかけさせたうえで「違反したら、損害賠償を請求する」と脅してくる。これにより、消費者は、誰にも相談できない状況に追い込まれてしまうわけだ。
ビジネス書『7つの習慣』にも示されている「心の眼鏡」
心の眼鏡について、的確に説いているのが、スティーブン・R・コヴィー著の『7つの習慣』(邦訳:キングベアー出版)である。ここには人がものを見るときには、ある種のレンズのようなもの(パラダイム)が存在し、それが自らの認識や行動、態度を決めていると書かれている。
パラダイムとはモデルや地図のことで、私たちは、あるがままに物事を見ていると思い込んでいるが、実際には社会の中で条件づけされたレンズを通して見ており、これが私たちのすべての行動を方向づけているというのだ。
前出のロト6に絡むサギ師たちは自分たちに有利になるようなレンズ(情報の守秘義務)を相手の心にかけさせて、繰り返し金を騙し取っているのだ。
理論を正しく使えばビジネスに活きる
さて、こうした『7つの習慣』の理論をベースにしたかのようなしたたかなサギ師の手口だが、正しい使い方をすれば、もちろんビジネスにも応用できる。
ビジネスにおいて、顧客が契約に前向きでない状況を打破するとき、相手の心にすでにかかっている眼鏡をはずして、新たなものをかけ直させる必要があるかもしれない。
『7つの習慣』では、私たちが現状を変えて、成功をもたらすためには、アウトサイド・イン(外から内へ)ではなく、インサイド・アウト(内から外へ)の考え方を持つ必要があるとも書いている。
私たちは物事がうまくいかないと、どうしてもその原因や責任を境遇や環境など外側(アウトサイド)に向けて考えてしまいがちであるが、そうではなく原因を内面に求めて、それを改善していくことで、外的な成功へと導くことができる。
このインサイド・アウトの考え方は、簡単には首をタテに振らない顧客を説得させるうえでも大いに役立つ。
内面に訴えて価値観をいかに変えるかが、営業トークの鍵
客を説得させるのに、「好景気なので、儲かる」と外的な状況ばかりを話して、契約を促す営業マンがいるが、それだけでは相手の心は容易に動かない。相手を頷かせるには、もっとその人自身の内面に働きかける必要がある。
たとえば、高齢女性に“減塩醤油”を販売するある業者は、単に「塩分が控えめなので、血圧が高めの人でも安心で体に良い商品です」と言うだけではなく、高齢女性の心に次のように語りかける。
「今さら、健康に気を使う必要はないなんて……思っていませんか。おばあさん、この醤油を買うことは、健康に良いだけではないんですよ。この商品を使うことで、おばあさんがいつまでも健康で元気でいられる。そうすれば、お孫さん、息子、娘さん、みんながどれほど喜ぶことでしょうか。みんなにいつまでも元気な姿を見せてあげてください!」
単なる「健康になる」というだけではなく、その背後にいる家族を思い浮かべさせて「健康であり続けて、家族を喜ばす」という内面の気持ちに訴えかけて、販売をする。
営業先では、いかにこうした相手の心を変えるようなひと言を言えるかが鍵になる。相手のパラダイムを変えるために、その人自身の「根っこ」にある気持ちを見抜き、価値観という眼鏡をいかに替えてあげられるかがポイントになるのだ。
【続きを読む】 “優秀な営業”と“サギ師”の共通点…手口が巧妙化するなか一貫して使われ続ける「会話のセオリー」とは
(多田 文明)