LGBTなど性的少数者が尊重される社会はいつ実現するのか。5月には自民党の国会議員が「生物学上、種の保存に背く」との趣旨の差別的発言をし、今月16日に閉会した通常国会では「LGBT理解増進法案」の国会提出が見送られた。国に限らず、福島をはじめ東北地方も、どこまで理解が進んでいるのか。自身も当事者である前川直哉・福島大特任准教授(社会学)に現状と課題を聞いた。【聞き手・寺町六花】
――今年2月に共著で出した「東北地方の性的マイノリティ団体活動調査報告書」で、東日本大震災の後に、東北で性的少数者の団体が増えたことに触れています。なぜ増えたのでしょうか。
◆震災を機に「自分たちのコミュニティーは自分たちで良くしよう」という運動が盛んになったことと、東北へのUターン・Iターンが増えたことが考えられます。ずっと地元にいる人よりも、一度外に出た人や、移住してきた人の方が地縁や血縁に縛られず、動きやすい側面もあると思います。2010年代は性的少数者に関する問題が盛んに取り上げられ、全国的に団体が増えたことも大きいです。
――福島県内でも性的少数者に対する意識の変化が起きていると感じますか。
◆共同代表を務める市民団体「ダイバーシティふくしま」として活動を始めた2015年の頃と違い、今は「LGBT」という言葉をほとんどの人が知っていますので、問題の認知度は確実に上がってます。ただ、身近なところに想像力を働かせたり、自分の職場を変えていったりするところまではつながっていません。よくあるのは、自分から何も言わなければ性的多数者だと自動的に見なされることです。目の前にいる人は必ずしも性的多数者とは限らないと理解しないと、「ご結婚は?」という善意の質問も、人を傷つけかねません。
――福島県は16年度に改定した男女共同参画プランで「性自認や性的指向にかかわらず尊重される社会の実現」を掲げていますが、現状をどう見ていますか。
◆当時、プランを策定する審議会のメンバーでしたが、原発事故で差別や分断が起きた福島だからこそ違いを尊重する多様性が重要だという議論がありました。でも、例えば、同性のパートナーシップ認定制度をみてみると、県内の自治体はどこも導入していません。また福島は、女性議員が少なく、首長は一人もいません。物事を決める時は、男性ばかりの同質性の集団ではなく、女性や性的少数者もいる、実際の多様な世界を反映すべきです。
――「LGBT理解増進法案」を巡る差別発言をどう見ていますか。
◆「差別は許されない」と書き込むこと自体を否定するというのは、人権そのものを否定しています。一連の差別発言は、性的少数者の生の実像とは大きくかけ離れています。国会議員はその後、発言に対する謝罪もおとがめもなく、がくぜんとします。
――理解を広めるには何が必要ですか。
◆皆さん、問題を認識していても「遠くの話」にしがちですが、「身近にいる」「このまちにもいる」というのがキーワードです。当事者がパレードをしたりニュースレターを発行したりすることも可視化する戦略です。東京ではなく、同じ県内の人たちが実行していることが大切だと思います。一方で、多くの人たちがこの問題を今まで見ようとしてこなかったことに気付くことも大切です。目の前にいないと思っているから「ご結婚は?」と聞くわけです。可視化が必要なのは、多数の人たちが今まで不可視化してきたからで、変わるべきは多数者なんです。
東北地方の当事者の声を紹介
「東北地方の性的マイノリティ団体活動調査報告書」は、前川特任准教授と和光大の杉浦郁子教授の共編著。性的少数者などでつくる19団体に所属する23人にインタビューし、県内からは4団体5人の声を聞いた。当事者たちが地方で活動するやりがいや苦労、東日本大震災での被災体験なども紹介している。250部作成し、東北6県の図書館や男女共同参画施設などで閲覧できる。一部は、インターネット上(http://www.reddy.e.u-tokyo.ac.jp/)で公開されている。