児童相談所の新設を巡る読売新聞の調査では、子どもの命を守る現場で専門職が不足している実態があらためて浮き彫りになった。児童虐待が増える中で、経験豊富なスタッフの確保が課題になっている。(石浜友理、増田知基)
「ここまで人材の確保が厳しいとは思わなかった」。東京都文京区の木口正和・児相準備担当課長はこう漏らす。当初、2022年度後半に児相の設置を予定していたが、「スーパーバイザー(SV)」と呼ばれる、5年以上の勤務経験を持つ児童福祉司確保のめどが立たず、25年度に延期した。
児童福祉司やSVは、地域内の人口や虐待件数などに応じて必要な人数が法令で定められ、同区ではSV4人が必要だが、昨年度採用できたのは1人だった。区職員を都児相などに派遣し、育成を進めるが、受け入れ側の負担に加え、送り出す側の現場が手薄になる懸念もあり、一気に増やすのは難しいという。
児童福祉司は、児童福祉法で児相に配置が義務付けられた専門職で、虐待対応などにあたる。昨年4月時点で全国に約4200人おり、「大学で心理学など専門科目を学び、1年以上の実務経験がある」などが要件で、行政に任用されて初めて効力を発揮する「任用資格」だ。
国は今年度末までに17年度比で約2000人増やす計画を進める。各児相とも経験豊富な人材は貴重で、手放したくないのが本音だ。各区で児相の開設が相次ぐことを見越して19年度に始まった23区共通の児相経験者の採用試験は、一部で定員割れとなる年もある。
木口担当課長は「虐待件数が急増し、もともと職員数が足りない中で、既設と新設の自治体を巻き込んだ人材の奪い合いが生じている」と明かす。
児相を新設できた区にも課題はある。20年4月に開設した世田谷区児相では、児童福祉司36人のうち、勤務経験5年未満の職員が半数以上を占める。河島貴子副所長は「我が子を児相に保護されることに納得しない親にどう向き合うか、ベテランでも対応が難しい事案もある。経験の浅い若手をどう育成するかが今後の課題だ」と語る。
設置を見送る動きもある。23区で唯一、児相を「設置しない」とした練馬区。前川燿男区長は都福祉局長を務めた経験から、「一時保護した子どもを入所させる児童養護施設は、都外にあることもある。区が独自にそれを探すのは非現実的だ」とし、広域行政を担う都児相に任せる方が効率が良いと強調する。人材確保についても「都児相ですら難しかったのに、小さな区では至難の業だ」と語る。
区は代替策として昨年7月、都と区が連携する「練馬区虐待対応拠点」を設置。一時保護など緊急性の高い案件を扱う都職員と、しつけといった家庭からの相談に応じる区職員が同じ場所で情報を共有しながら対応している。
金沢星稜大の川並利治教授(児童家庭福祉)は「国の増員計画と児相新設の時期が重なり、人材確保の難しさに拍車がかかっている。既設の児相は、新設を目指す自治体職員の派遣や研修の受け入れに最大限協力すべきだし、新設する自治体側は、比較的短い期間で行われる行政一般の人事異動を児相職員には適用せず、戦略的に人材育成を図る必要がある」と話す。