新型コロナウイルスワクチンの職場接種が本格的に始まり、5日で2週間。この間、想定を上回る申請で新規の受け付けが停止されたほか、申請済み企業でもワクチン未着などが起き、中小企業を中心に実施をあきらめたり延期したりするケースも出てきた。さまざまな課題をクリアし実施を目指した企業も多いだけに「はしごを外された」との声があがる。
「多大なご迷惑をお掛けすることとなり、心苦しい限り…」
関西経済同友会は6月29日、会員企業に合同での職場接種の断念を知らせる謝罪メールを送った。22日から会員企業に合同接種への参加を募っており、一定数が集まり次第、申請する予定だった。
しかし翌日、政府は申請受け付けを25日午後5時で一時停止すると発表。関西同友会は締め切りに間に合わず、いったんは受け付け再開を待つことにしたものの、見通しが立たないとして断念した。担当者は「いつになるかわからない職場接種のために、会員企業を待たせられない」と話す。
申請は間に合いながら、ワクチンの未着や政府の承認手続きが終わらないため、実施を延期する企業も。
ねじ専門商社のサンコーインダストリー(大阪市西区)は、職場接種の条件で示された千人程度を確保するため、取引先などに呼びかけ合同での実施を計画。7月5日から始める予定だったが、厚生労働省からワクチンを予定通り届けることができないと連絡があった。
奈良県の大和高田商工会議所は地元医師会などの協力をようやく取り付け、申請の締め切り前日に滑り込みで間に合わせた。ただ、2日時点で正式な承認の連絡はない。同商議所は「地域のワクチン接種を促進するため一日でも早く受け付けを始めたい」と気をもむ。河野太郎ワクチン担当相は同日、承認が終わっていない分の開始時期について「7月中に始めるのは非常に難しい」と述べており、具体的な時期は見通せない。
日本商工会議所によると、5日午前の時点で全国100以上の商議所が約60万人分の職場接種を申請したという。日商は「先行実施されている大企業などの接種でワクチンが不足している」などとし、政府に早期の承認と確実なワクチン供給を求めた。
だが、すでに始めている大企業でも供給不安がつきまとう。ある大手メーカーでは従業員ら数万人規模で進めるが「供給量は日々、綱渡りの状態」。予定する接種分の確保で厚労省との交渉に追われている。担当者は「始まった途端に供給不足。千人以上でなければワクチンを供給できないといわれ、できる限り人数を集めたのに。はしごを外された思いだ」と嘆く。
職場接種をあきらめた企業などは自治体の接種に切り替えるが、その自治体接種でも予約停止が広がっている。接種をめぐる混乱はまだまだ続きそうだ。
ワクハラ回避へ「情報管理を」
職場接種を進める企業が増えるなか、接種に関する従業員の個人情報管理も重要になっている。個人の接種の有無が職場内で共有されると、接種しない人が差別されたり、接種するよう同調圧力をかけたりする「ワクチンハラスメント」につながる可能性がある。
個人情報保護法に詳しい佐藤みのり弁護士によると、従業員の接種に関する情報は、公開されることで不当な差別や偏見につながりかねないと同法で定める「要配慮個人情報」に当たる可能性が高いという。
職場接種だけでなく、自治体による接種を受けたかどうかの個人情報も配慮が必要だ。企業側は職場の安全を守るという趣旨で従業員から情報を取得することは可能だが、本人の同意が必要となる。
佐藤氏は「企業はワクチン接種に関する情報を不特定多数の人が触れられないよう、担当部署など必要最低限の範囲で厳正に管理しなければならない」と指摘している。(山本考志)
企業が従業員らを対象に新型コロナウイルスワクチンを接種すること。高齢者を先行させている自治体の接種を補完し、一気に加速させる狙いがある。対象に従業員の家族や地域住民らも含めることができる。希望する企業は政府の専用サイトから申請。接種に当たる医師や会場は企業が自ら確保する必要がある。同じ会場で最低千人程度に2回接種するのが基本。申請数が米モデルナ製ワクチンの輸入ペースを上回り、政府は受け付けを一時停止した。