「菅再選」ともに支持なのに、安倍氏と二階氏が水面下で神経戦…[政治の現場]決戦の足音<2>

割烹
(かっぽう)料理店での会食は、ウーロン茶の乾杯で始まった。
6月30日夜。コロナ禍で人出の少ない東京・赤坂で、前首相の安倍晋三と自民党幹事長の二階俊博が向かい合った。二階の腹心で幹事長代理の林幹雄、安倍の出身派閥・細田派の柴山昌彦がそれぞれ陪席した。
冗舌な安倍に対し、二階はいつものように言葉少なだった。話題は間近に迫っていた東京都議選に及んだ。「小池さんはしたたかだから、何をするかわかりませんね」。安倍は、過労で入院していた都知事の小池百合子の話を振ったが、小池と近い二階は黙ったままだった。
安倍と二階は、首相の菅義偉の党総裁「再選」支持で足並みをそろえる。だが、総裁選後の主導権を巡って、水面下では激しい神経戦を繰り広げている。

「あの何とか議連って何なんだ」
二階は5月下旬、党本部の幹事長室で切り出した。筆頭副幹事長の山口壮が「半導体ですか」と応じ、林が「『反動隊』と言われているやつか」と合いの手を入れた。
「何とか議連」とは半導体戦略推進議員連盟のことだ。税制調査会長の甘利明が発足させ、5月21日の初会合では安倍と副総理兼財務相の麻生太郎がひな壇に並んだ。安倍政権で中枢を担った3人は「3A」と称される。党内では、総裁選後の人事をにらんだ動きと受け止められた。「首相経験者が2人も出て何をやる気だ。もっと人を集めてやろうか」。二階は息巻いた。
仕掛けたのが、「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)構想を推進する議員連盟。二階派衆院議員の小泉龍司らが主導する議連で、二階は会長に就き、最高顧問就任を安倍に打診した。
合わせると党所属国会議員の約4割を占める細田、麻生両派に対し、二階派は「数の力」で劣勢に立つ。安倍を引き込みつつ、自らの影響力を誇示する「抱きつき戦術」だった。首相時代にFOIPを推進した安倍は、就任を了承。6月15日の初会合には、半導体議連の約60人をはるかに上回る約130人が集まった。
二階の切り札が小池だ。二階と小池は、新進党、自由党、保守党と行動を共にした間柄で、小池は定期的に二階の元を訪れている。都議選の投開票翌日の5日も、二階と党本部で約40分間、話し込んだ。
二階は「一人で自民を敵に都知事選を戦った。たいしたもんだ」と小池を評する。国政に戻るとの観測が絶えない小池は、二階にはこれ以上ない「カード」だ。8日のテレビ番組の収録では「国会に戻ってこられるならば、大いに歓迎」とエールを送った。

「いいんじゃない」
6月7日、議員会館の自らの事務所で、安倍は、選択的夫婦別姓の慎重な議論を求める決議文に目を通すと、満足そうにうなずいた。5月下旬には、性的少数者(LGBT)への理解増進法案の党内了承を阻むよう、元地方創生相の片山さつきらに発破をかけた。
安倍の事務所には今、議員や官僚らがひっきりなしに訪れている。持病の悪化で首相を退いたが、体調はすっかり回復し、精力的な活動が目を引く。
安倍には、じくじたる思いがある。昨年の総裁選では、細田、麻生、竹下の3派がそろって菅支持を表明し、総裁選の雌雄を決した。だが、菅政権の「生みの親」の評は、真っ先に支持を打ち出した二階にさらわれ、人事でも二階派が厚遇された。
半導体議連の発足をはじめ、今回は積極的に仕掛けている。「総裁選は昨年やったばかりだ。菅氏が首相を続けるべきだ」。5月3日のBS番組で早々に再選支持を表明。5月下旬には、麻生と都内で会食し、「我々で作った菅政権を支えないといけない」と確認した。
茂木敏充(外相)、加藤勝信(官房長官)、下村博文(政調会長)、岸田文雄(前政調会長)――。月刊誌で「ポスト菅」候補を列挙してみせる姿には、キングメーカーとしての自負が見え隠れする。
不安材料もつきまとう。「桜を見る会」の問題で、市民団体などが安倍の不起訴について、検察審査会に審査を申し立てていることだ。
安倍と二階。その危うい力の均衡の上で、菅は政権運営を続けている。(敬称略)

自民党の総裁選びでは、派閥の力を背景に絶大な影響力を持つ「キングメーカー」の意向がたびたび決め手となってきた。代表的な例が、田中角栄・元首相や金丸信・元副総裁だ。
田中氏は金脈問題で首相を退いた後、最大派閥の田中派から総裁・首相を出さず、大平正芳、鈴木善幸、中曽根康弘の各首相の誕生を主導し、「闇将軍」と呼ばれた。田中派を飛び出した竹下登氏は、自ら竹下派を創設。首相退任後、同派は他派閥の宇野宗佑、海部俊樹、宮沢喜一の各氏を首相に押し上げた。竹下派会長だった金丸氏は「政界のドン」の異名を取った。
2001年に首相を辞任した森喜朗氏は、森派(現・細田派)のオーナーとして力を保持。派内から小泉純一郎、安倍晋三、福田康夫の各氏が3代続けて首相に就いた。