【坂本翔】「RTしたら100万円あげます」ツイートに秘められた驚愕の真実 投稿者の狙いを知っていますか?

Twitter発祥の「○○なう」という表現は、今や幅広い世代で浸透しきっている。国内の月間アクティブユーザー数は4500万を越え、政府関係者や上場企業の経営者や役員も情報発信に利用するなど、確かな影響力を持つコミュニティサービスだ。そんなTwitterが持つ“マーケット”としての魅力は日に日に増してきている。
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2019年1月、ZOZO創業者の前澤友作氏が自身のTwitterで「日頃の感謝を込め、僕個人から100名様に100万円【総額1億円のお年玉】を現金でプレゼントします。」とツイートした。結果、このツイートは558万回以上リツイート(拡散)され、平成最後のお正月の話題をかっさらった。このことをきっかけに、サッカー日本代表の長友選手や、人気ユーチューバーのラファエルなど、多くの著名人がTwitterを通して現金をプレゼントする企画を実施することとなった。
今月6日(2019年9月)には、“青汁王子”で知られる三崎優太氏が、1人につき100万円を計180名にプレゼントすることをツイート。事の発端は今年2月、三崎氏が脱税の容疑で逮捕されたことだ。当時脱税したとされた金額は1億8千万円。これに対して徹底抗戦の構えを示す三崎氏は、“贖罪寄付”として、脱税したとされる1億8千万円を100万円ずつ180名に配ることを宣言したのだ。

この三崎氏以外にも、Twitter上で現金プレゼント企画を実施するアカウントは未だ後を絶たず、もはや“当たり前”の光景と化してきている。
こうした企画は、基本的にリツイートとアカウントのフォローをしたユーザーのみを条件にしており、「100万円もらえるならフォローとリツイートくらいしておこうかな」という気持ちで企画に参加する一般ユーザーも多いのではないだろうか。実際に三崎氏の企画も100万回以上リツイートされており、その他の企画もかなり多くのリツイートがなされている。
こうした企画の「狙い」はどこにあるのだろうか。一見すると、現金をバラ撒くだけで出費がかさむだけのようにも思える。しかし、そこには大きく分けて3つの明確な目的が存在している。
(1)広告効果(2)個人情報の獲得(3)アカウントの売却
(1)の広告効果から解説しよう。当然のことながら、リツイートされれば、本人はもちろんのこと、そのフォロワーにもまた、発信した情報がリーチする。そこでさらにリツイートされれば、ドミノ倒し状に宣伝が拡散されるのだ。
また、フォローも条件に入れている場合は、フォロワーが増えることで企画終了後も宣伝力を維持することが可能になる。つまり、現金という魅力的なプレゼントを用いて、一挙に発信者自身や、企業・商材の認知度向上と見込み顧客の囲い込みが達成されるという訳だ。
消費者心理的にも、新宿の駅前に掲示されている広告よりも、自分がリツイートやフォローをするといったアクションを通して接触した広告の方が、印象に残りやすい。

次に、(2)の個人情報の獲得も、現金プレゼント企画の狙いの1つだ。「当選した後の振り込み手続きのため」や、「受け取りの本人確認のため」などと称して、メールアドレスや電話番号を要求するのである。こうした個人情報も、事業主にとっては営業活動やマーケティングのための貴重なリソースとなる。(1)の広告効果と通じるところがあるが、企画を通した中長期的な販拡が目的だ。
最後に、(3)のアカウントの売却について解説したい。実は、Twitterアカウントはフォロワー数などに応じて値付けがされており、買い手の需要とマッチすれば売却することもできるのだ。この場合、買い手の目的は機会費用をかけずに宣伝力を高めることが主であるため、フォロワー数が多い方がより高値で売れるということになる。
したがって、現金プレゼント企画でアカウントのフォロワーを増やすことで、アカウント自体を売却するということが目的として成立するのだ。
そもそも、このようにTwitterを使った現金の配布は法に触れることはないのか。ここでは、景品表示法とTwitterの規約の観点から見ていきたい。
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まず、景品表示法だが、結論からいうと規制対象にはならない。一般に、商品・サービスの利用者や、来店者を対象として金品等を提供する場合は、「取引に付随」して提供するものとみなされ、景品規制の適用対象となる。
一方、ウェブサイト等で広く告知し、商品・サービスの購入や来店を条件としない企画は、「オープン懸賞」と呼ばれ、景品規制が適用されない。また、オープン懸賞の上限金額については平成18年の法改正後、規制が撤廃されているので、こちらも違法とはならない。
次にTwitterの規約の観点からはどうか。結論から言えば、こちらも違反にはならない。Twitterにはキャンペーン実施についてのガイドラインというものがあり、複数アカウントを作成させない、繰り返し同じツイートをさせない等の記載がある。だが、あくまでガイドラインであり、実際に今年1月の前澤氏の企画実施時には、Twitter社がルールには反しないとの判断を表明した。

その他にも、こうした企画の度に問題視されているのが、企画主催者になりすました“偽アカウント”だ。前澤氏の時も三崎氏の時も、本人になりすましてフォロワー数を荒稼ぎするアカウントが見受けられる。残念ながら、こうした偽アカウントも、一般ユーザーに具体的な損害が発生していない限りは罰することはできない。
ここまで、Twitter上で流行する現金プレゼント企画について、その狙いや法律との兼ね合いを解説してきた。ここでは、実際に現金をプレゼントする気はないが、フォローとリツイートで現金プレゼントを謳う「架空懸賞」についても触れておきたい。
正直なところ、これを見極めるのは非常に難しい。というのも、「当選者にはDM(個別メッセージ)で通知」等としてしまうことで、外部からは本当にプレゼントしているかどうかを知る術がなくなってしまうからだ。つまり、こういった企画への応募は自己責任でしっかりと判断をしなくてはならない。

では、架空懸賞への応募を防ぐために、どういったことに気をつけるべきなのか。いちばん重要なのは、ツイートしている人(主催者)の立場になって考えるということだ。
そうした時に、もし主催者がなんの知名度もなく、周囲の「信用」を失っても問題ないような人物であれば、架空懸賞をすることにデメリットが生じないため、架空懸賞である可能性は高くなる。逆に、前澤氏や三崎氏のように、世間の信用を失うことが大きな痛手になる立場の主催者の場合、架空懸賞で得られるものより失うものの方が大きくなるため、その可能性は低くなる。
もう少し具体的に、主催者の考察の仕方についてお話ししよう。主催者を考えるときには、(1)素性が明らかであるかどうか、(2)過去に積み上げてきた実績があるか、という2つの視点を持つことが必要だ。
(1)はもっともだが、それだけではなりすましの偽アカウントを見抜けない。そこで(2)の視点をもつことで、ツイート数やフォロワー数が少なかったり、著名人のはずなのに青いバッジの公式マークが付いていなかったりするなど、これらの点に警戒すると、偽アカウントや架空懸賞を見抜くことができる。
追加で警鐘を鳴らしておきたいことがある。当選通知と共に「最終ステップとして下記のサイトに登録してください」と告げられたなら、主催者の目的はアフィリエイトによる収入である可能性が出てくる。これは、サイトのクリック数や登録斡旋数に応じて報酬を得る仕組みであり、応募者は懸賞を得ることができず、個人情報を抜き取られただけで終わってしまうかもしれない。もちろん、企画に参加する前の段階で見抜くことができればベストだが、参加した後でも、最後まで注意を払うことで不遇な事態を避けることができる。
あまり知られていないかもしれないが、Twitterは本来、「ユーザーの善意を増幅する」ツールとしてあるべきという理念の元に運営されている。今回の記事では、なりすましや架空懸賞といった「悪意」の面にフォーカスが寄ったが、現金のプレゼント企画自体はもともと「善意」から生まれた企画のはずだ。情報が複雑化する時代の中で、Twitterという場所が、善意が勝ち続けるコミュニティで在り続けることを願う。