※本稿は、和田秀樹『コロナの副作用!』(ビジネス社)の一部を再編集したものです。
日本医師会が一時に比べれば政治力が弱くなったとはいえ、それでも開業医の外来診療のほうが民間病院の病院診療よりも割が良い状況は守られています。こうした状況で現在何が起きているでしょうか。
医者の数がぎりぎりの民間病院では、週に1回、医者は必ず当直をしなければなりません。ひどいときには週2回当直しないといけなくなります。しかも、当直の翌日に外来勤務をやることもあります。俗に言う「ブラック職場」です。
それにもかかわらず、開業医よりも年収は低い、というのが民間病院の勤務医です(開業医の年収は勤務医の2~3倍)。
バブル経済崩壊後、土地や建物の買い手が、特に地方ではつかなくなりました。そこで不動産屋が考え出したのが、「ドクターズビル」です。内科や外科、小児科、耳鼻科、眼科などが1つのビルに入っているドクターズビルを見かけたことが誰にでもあるでしょう。
このドクターズビルが現在増えているのですが、どのようなビジネスの仕組みになっているかを考えたことがある人は、あまりいないかもしれません。
たとえば、5階建てのビルを建てたとしましょう。ワンフロアの広さにもよりますが、単純にワンフロアに1診療科とすると、2階から5階に4つの診療科を誘致します。そして、1階に入るのが、調剤薬局です。
2~5階の診療科のほとんどの患者さんが、医者から発行された処方箋を持って1階の調剤薬局で薬を購入します。だから、当然、調剤薬局は儲かります。つまり、ドクターズビルのスポンサーは、医薬分業で生まれた院外調剤薬局なのです。
一番儲かるのは1階の調剤薬局なので、調剤薬局が土地を買ってビルを建て、内科、外科、小児科、耳鼻科、眼科などにビルに入ってもらい、それらの処方箋を持った患者が1階の調剤薬局に来て薬を購入するというシステムなのです。調剤薬局が開業資金を融通するという話も聞いたことがあります。
ドクターズビルは、1階の調剤薬局で儲けることができるため、2~5階の診療科の開業医へのビルの賃貸料を安くすることができます。
これまで医者は自ら開業するためには、自分で土地を買い、建物を建てていたため、億単位の借金をする必要がありました。さらに、自宅と診療所が同じ建物にあるか隣接していたため、夜中に患者に来訪され、たたき起こされることも多くありました。
ところがドクターズビルに入るのであれば、敷金は無料で毎月の賃料だけを払えばよく、夜中にたたき起こされる心配もありません。それで勤務医時代の2~3倍の年収になるなら、多くの勤務医が民間病院を辞めて、開業するのも当然です。
だから、ドクターズビルが増え、ドクターズビルに医者をとられた民間病院では、勤務医がさらに足らなくなるのです。
ドクターズビルが増え、民間病院が疲弊するのは、開業医ばかりを優遇して、民間病院に対しては医者や看護師の人員数など、厚生労働省が規制でがんじがらめにしていることが一因です。
民間病院は、医者の人員が確保できなければ、病床数を減らすか、病院を潰すしか選択肢がありません。病院を潰したくなければ、医者を確保するしかないのですが、では、どうやって、ブラック職場で収入が少ない勤務医を確保するのでしょうか。
方法は、たった1つ。大学医学部から医者を回してもらうしかありません。大学医学部から医者を回してもらうためには、教授にお願いすることになるのですが、昔は、教授にお願いして医者を回してもらうお礼として、100万円単位のお金が必要でした。
それがばれて、贈収賄として病院の経営者と大学医学部の教授が逮捕された事件をきっかけに、さすがにこの方法はとられなくなりました。2019年に旭川医大の教授が内緒でお金をもらって懲戒解雇になりましたが、そのくらい厳しくなっているのです。
近年では、教授を接待することで、民間病院は教授に医者を回してもらっていますが、このため、どんどん教授に頭が上がらなくなっています。
そして、民間病院の窮状をよく知っている大学医学部の教授は、こんなことを言うのです。
「酒の席には、病院で一番美人の事務員を連れてこいよ」
私が聞いた話では、九州のある大学医学部の内科の教授が、「俺がもってきたワインが飲めないのか」と言って病院の事務員の女性に一気飲みを強要し、急性アルコール中毒になるまで飲ませたそうです。内科の医者である教授がワインを一気飲みさせるだけでも問題ですが、話には続きがあります。
教授を接待していた病院には救急外来があったので、そこに急性アルコール中毒になった女性事務員を担ぎ込み、教授もその救急室(もちろん部外者だから立ち入り禁止なのに入ってきたのです)に入り、「こんなに苦しんでいるんだ。早く下着を脱がせろ」とのたまったそうです。
こんな人間が大学医学部の教授をしているのです。病院の医院長や理事長が、医者を回してもらうために大学医学部の教授を接待することは、即刻、禁止すべきではないでしょうか。
そうでないと病院の女子職員(地方では女性のいい就職口がないのでやめさせられたくなくて泣き寝入りが多いのです)の人権は守られません。私が聞いた話は氷山の一角で性接待だって珍しくないかもしれません。
このような形で医師不足のために地域の病院の医師たちが疲弊し、多くの病院がそのために廃院になったり、縮小したりしているわけですが、これに関して医師会はまったく助けようという考えはないようです。
医師数などの規制緩和を求めることもなく、また外来診療と入院診療の報酬のギャップを埋めるどころか、外来の診療報酬も守ることに躍起です。
また、地方の医者不足の現状にしても、競争原理で医療の質を高めるためにも、医師数を増やせば解決がつく問題ばかりなのに、前述のように医師数が増えるようなことについては、一貫して反対の立場を貫いています。
今の医師会の最大の仕事であり、レゾンデートルであるのは、医者の数を増やさないことで、自分たちの権益を守ることではないかと疑ってしまいます。
そして、かつての日本医師会は、自分たちで勉強会を開き、開業医が大学病院の医者と対等の知識と技量を身につけることを目指してお互いに研鑽していました。
しかし現在の日本医師会は、各地の腕のいい医者を指導者にして、日本の医療現場の力を向上させようといった気概もまったくありません。
日本医師会では、生涯教育と称して、医者向けに様々な講座を開いてはいます。ただ、「認知症トータルケア」というテーマであっても、教えるのは実際にケアの臨床を行っている医者ではなく、大学医学部の教授です。認知症のケアなどやったこともない教授が講師を務めているのです。
アメリカの医者にとっては、腕の善し悪しが非常に大事で、腕の良し悪しで患者の集まる度合いが決まり、それによって収入が決まります。アメリカでは、専門医になるための試験問題をつくるのも、「ボード」と呼ばれる地元の名医たちです。
ところが、日本の場合は学会専門医ですから、教授たちがつくった重箱の隅をつついた問題を解いた人が専門医になります。アメリカの専門医と日本の専門医はまったくの別物で、日本の専門医制度は、臨床の腕を保障しているわけではないのです。
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(国際医療福祉大学大学院教授 和田 秀樹)