渋谷、銀座、上野…でネズミが大量発生。一体なぜ?

8月上旬、渋谷のコンビニエンスストア店内をネズミが駆け巡る動画がSNSに投稿された。あの映像を見てこう思った人も少なくないだろう。「もしウチにもネズミが大量発生したら……」。東京都内のネズミ事情を探る。

◆電線をかじってショートさせ、火事を引き起こす

デフォルメされたアニメでもない限り、ネズミを見て「カワイイ」と思う人はほとんどいないだろう。“ドブ”すなわち下水溝を走り回るイメージから、“汚い”と思っているからかもしれない。

当然、ネズミたちに何の悪気もなく、必死で生きているだけだ。でも、人間からみれば、ネズミの糞は汚染を引き起こし、食中毒の原因となるサルモネラ菌などを運ぶ。さらに電線やケーブルをかじってショートさせ、火事の原因にもなる…。悲しいことである。

結果、人間は駆除を繰り返し、昭和を生きた者ならば「だいぶ見なくなった」と思っていたはずだ。それなのに渋谷のコンビニエンスストア店内を駆け回るクマネズミの映像が拡散された、令和元年。何が起きているのか? 都内の害虫獣被害相談を受けている公益社団法人東京都ペストコントロール協会の谷川力氏に話を聞いた。

「歴史的には終戦後、都内にドブネズミが大量発生します。それも殺鼠剤の登場で数は減っていくのですが、代わりに出てくるのがクマネズミです。高度成長期でビルが立ち並ぶようになり、壁を登れる上に殺鼠剤にも強いクマネズミが増えていったのです」
◆ルールを守らず捨てる生ゴミがエサ場をつくる

いわゆる“家ネズミ”と呼ばれるのは3種類。ハツカネズミは都会であまり見られないため、都内で勢力争いしているのはドブネズミとクマネズミだ。昭和の終わり頃には殺鼠剤でドブネズミはだいぶ数を減らされていたため、平成に入る頃までクマネズミの天下だったが、殺鼠剤があまり使われなくなり、再びドブネズミが台頭。今はいずれも増加の傾向にあり、東京都内のネズミ相談件数が’09年は1691件だったのに対し、’18年は2023件に増えている。

都内でも都会にネズミはすみづらいと思うかもしれないが、実際にはかなり潜んでいるらしい。

「エサ場と隠れ家があればネズミは増えます。飲食店の多い都会はエサ場に困らない。あとは隠れ家。例えば渋谷はセンター街にドブネズミが結構います。昔はハチ公前にいたのですが、隠れ家だった植え込みをコンクリートで埋められたので、今はセンター街のビルの隙間に移動しました」(谷川氏)

ドブネズミは地面に穴を掘って暮らすので土があれば隠れられる。上野や銀座界隈でもかなり潜んでいるという。そこから飲食店にゴミを漁りに行くのだろうが、最近はコンビニエンスストアにも顔を出すようになったということか?

「コンビニのネズミ被害はほとんど聞いたことがありません。厳しい衛生管理をしているはずですから。渋谷の件はかなりレアなケースです」(同)

つまりエサ場となるのは飲食店メイン。そちらの衛生管理を徹底すればネズミはいなくなるのではなかろうか?

「渋谷区では食品事業者向けの助言や指導、講習会を行っています。エサ場をつくらせない方法も教えてます。町会には殺鼠剤や粘着シートも配っています」(渋谷区生活衛生課・課長の豊田氏)

それでも増えるのはなぜか?

「店によって意識の違いはピンキリです。最近も池袋の飲食店ビルのゴミ集積場でネズミが大量発生しましたが、たった一店舗がゴミ捨てのルールを守らなかっただけですからね」(前出・谷川氏)

同じようなことがマンションのゴミ置き場でも起こりうるという。一人が曜日構わず生ゴミを捨てればネズミのエサ場となって大量発生。そこから配電、配管、ダクトを通って住居に侵入してくることも十分に考えられるのだ。ちなみにネットで「ドブネズミ 水洗トイレ」と検索してみてほしい。下水から排水管を泳いでトイレに顔を出すネズミもいる……。

住宅街のゴミ捨て場にルールを守らないで捨てる人がいてもネズミの大量発生には至らないだろうが、ゴミ屋敷が近くにある場合はそこから下水溝を伝ってくる可能性が高いので要注意。同じアパートにゴミを捨てない人がいる場合も天井を伝ってネズミが発生する可能性大だ。部屋を借りるときに風呂場の点検口から天井をのぞき見て、ネズミの糞があるかどうか確認することをオススメする。

それより何より、ゴミを溜めないことが肝要。エサ場じゃなければネズミは決してやってこない!

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◆大量発生するネズミの緊急対処法とは?

【ネズミの害】

・不潔な菌の運搬
・かじられる被害
・糞尿の被害
・音の被害
・イエダニの発生

【駆除対策】

・毒エサを配置する
・捕獲する

【予防対策】

・エサを与えない
・ゴミを溜めない
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◆2020東京五輪の夏にトコジラミと蚊が大量発生!?

東京都内でネズミ以上に問題となっているのがトコジラミである。

「例えば蚊もそうですが、赤ちゃんの頃は血を吸われてすぐにかゆいという反応は示しません。遅延反応といって4、5日たってから腫れてくる。それが何度か血を吸われるとすぐに腫れてかゆくなるのですが、日常になるくらい連続すると無反応になり、かゆくなくなります。

そうなった外国の方々は虫と一緒に住んでいるようなものですから、衣類に付いていたり、カバンに付いていても気づかず日本へ持ち込んでしまい、急増しています。ちなみに蚊も飛行機で日本へ運ばれます」(谷川氏)

その相談件数は夏がピークとなっている。つまり海外から来る人が増える夏の大きなイベントがあると爆発的に増える危険性があるということだ。

【谷川 力氏】東京都ペストコントロール協会 技術委員長
麻布大学環境保健学部卒業。獣医学博士。ネズミ生態研究の第一人者としてテレビ番組にも多数出演。著書に『安心して住めるネズミのいない家』(講談社+α新書)

<取材・文/上野充昭 写真提供/日本ペストコントロール協会 東京都ペストコントロール協会 ねずみ駆除協議会 木村悟朗>

※週刊SPA!8月27日発売号「ネズミ大量発生の怪」特集より