東京電力福島第一原子力発電所の事故後、欧州のドイツやイタリアなどは脱原発を決断した。当の日本には、なぜ、それができないのか。背景には「原発と核抑止力」の関係があるとの見方は根強い。この問題を考える2回目は、「核抑止力の保持につながる原発を本当に捨てていいのか」と問題提起する自民党の石破茂衆院議員へのインタビューをお届けする。 第1回:「安全保障に原発必要」は本当?被爆科学者の答え ■「核抑止力を考慮せよ」と主張する石破氏 インタビュー内容を紹介する前に、以下の流れを押さえておきたい。 原発事故から約4カ月後の2011年7月、菅直人首相(当時)は「原発に依存しない社会を目指すべきだと考えるに至った。計画的、段階的に原発依存度を下げ、将来は原発がなくてもやっていける社会を実現していく」と脱原発を打ち出した。 すると、産業界などからエネルギー需給は大丈夫かという不安や疑問が沸き起こる。その中には「核抑止力」の観点からの異議もあった。代表的なものは、同年8月10日の読売新聞社説である。社説は菅直人首相の脱原発路線を「無責任」と評し、以下のように主張した。 「日本は、平和利用を前提に、核兵器材料にもなるプルトニウムの活用を国際的に認められ、高水準の原子力技術を保持してきた。これが、潜在的な核抑止力としても機能している。首相の無責任な言動には、こうした配慮がうかがえない」 当時、自民党政調会長だった石破茂氏もその6日後、テレビ朝日「報道ステーション」に出演し、以下のように語っている。 「原子力発電というのがそもそも、原子力潜水艦から始まったものですのでね。日本以外のすべての国は、原子力政策というのは核政策とセットなわけですね。ですけども、日本は核を持つべきだと私は思っておりません。しかし同時に、日本は(核を)作ろうと思えばいつでも作れる。1年以内に作れると。それは一つの抑止力ではあるのでしょう。それを本当に放棄していいですかということは、もっとそれこそ突き詰めた議論が必要だと思うし、私は放棄すべきだとは思わない」 いずれも、原発政策を議論する際には、安全保障問題としての核抑止力を考慮せよ、という主張だ。 これには反論もある。例えば、長崎市の田上富久市長は「基本的にその考え方はおかしい。核抑止力という考え方そのものが違う。核保有国が増えている現状を見る限り、(核の保有が)安全に寄与していないことは歴史的に明らかだ」(2011年10月31日の定例記者会見)と述べた。ほかにも広島・長崎の被爆者らが核抑止論を徹底批判するなどしている。
東京電力福島第一原子力発電所の事故後、欧州のドイツやイタリアなどは脱原発を決断した。当の日本には、なぜ、それができないのか。背景には「原発と核抑止力」の関係があるとの見方は根強い。この問題を考える2回目は、「核抑止力の保持につながる原発を本当に捨てていいのか」と問題提起する自民党の石破茂衆院議員へのインタビューをお届けする。
第1回:「安全保障に原発必要」は本当?被爆科学者の答え
■「核抑止力を考慮せよ」と主張する石破氏
インタビュー内容を紹介する前に、以下の流れを押さえておきたい。
原発事故から約4カ月後の2011年7月、菅直人首相(当時)は「原発に依存しない社会を目指すべきだと考えるに至った。計画的、段階的に原発依存度を下げ、将来は原発がなくてもやっていける社会を実現していく」と脱原発を打ち出した。
すると、産業界などからエネルギー需給は大丈夫かという不安や疑問が沸き起こる。その中には「核抑止力」の観点からの異議もあった。代表的なものは、同年8月10日の読売新聞社説である。社説は菅直人首相の脱原発路線を「無責任」と評し、以下のように主張した。
「日本は、平和利用を前提に、核兵器材料にもなるプルトニウムの活用を国際的に認められ、高水準の原子力技術を保持してきた。これが、潜在的な核抑止力としても機能している。首相の無責任な言動には、こうした配慮がうかがえない」
当時、自民党政調会長だった石破茂氏もその6日後、テレビ朝日「報道ステーション」に出演し、以下のように語っている。
「原子力発電というのがそもそも、原子力潜水艦から始まったものですのでね。日本以外のすべての国は、原子力政策というのは核政策とセットなわけですね。ですけども、日本は核を持つべきだと私は思っておりません。しかし同時に、日本は(核を)作ろうと思えばいつでも作れる。1年以内に作れると。それは一つの抑止力ではあるのでしょう。それを本当に放棄していいですかということは、もっとそれこそ突き詰めた議論が必要だと思うし、私は放棄すべきだとは思わない」
いずれも、原発政策を議論する際には、安全保障問題としての核抑止力を考慮せよ、という主張だ。
これには反論もある。例えば、長崎市の田上富久市長は「基本的にその考え方はおかしい。核抑止力という考え方そのものが違う。核保有国が増えている現状を見る限り、(核の保有が)安全に寄与していないことは歴史的に明らかだ」(2011年10月31日の定例記者会見)と述べた。ほかにも広島・長崎の被爆者らが核抑止論を徹底批判するなどしている。