《横浜市長選で与党惨敗》「総裁選に勝利して衆院解散に…」とにかく“タフ”な菅首相が“次に期待”し続ける理由

おや? と思った。8月18日の毎日新聞です。
《安倍晋三前首相や麻生太郎副総理兼財務相が「菅降ろし」に動くとの観測さえ出始めた。》
ほー。
あくまで観測が「出始めた」という表現ですが、タブロイド紙や週刊誌ではなく一般紙の朝刊にこういう一文があったことは記録しておきたい。すでに自民党内がザワザワしている様子がわかるからだ。こういう「願望」もあるのだろう。
菅首相のお膝元の選挙結果は
注目すべきは、この記事は横浜市長選の結果が出る「4日も前」だったこと。では菅首相のお膝元の選挙はどうなったか。
『横浜市長選 与党惨敗 菅政権に打撃』(読売新聞8月23日)
読売には惨敗と書かれてしまった。毎日の次の記事にもギョッとしました。
《党内からは「首相が前面に出て来たから、おかしなことになった」などと、首相への厳しい声が相次いだ。》(毎日新聞8月23日)
おい、首相が前面に出たって理由で怒られてるぞ!
菅氏はかつて「陰の横浜市長」とまで言われ、揺るぎない地位を築いて国政に出たが今の姿はこれである。記事の見出しは『首相の不人気 鮮明』。毎日新聞のいじわる。
しかし菅首相はへこたれない。
『首相、10月前半の解散を模索…ワクチン接種拡大で逆風の緩和に期待』(読売新聞オンライン8月23日)
とことん「期待」するタフさ
どういうことかといえば、首相は9月末に予定されている自民党総裁選に勝利して「求心力を回復したうえで、間を置かず10月に衆院解散に踏み切る案を検討している」とのこと。この「間を置かず」というドサクサ、いえ、やみくもな姿勢がたまりません。でも首相の次の思惑に目がとまりました。
《10月になれば、新型コロナワクチンの接種が進展し、感染状況の好転や逆風の緩和につながるとの期待もある。》
ああ、ここでもまた「期待」だ。
昨年のGoToトラベルキャンペーン以降、コロナ対応で何度も期待し、何度も勝負に賭けた。その結果いまの低支持率になってしまったのだが、また「期待」しているのである。このタフさはなんだろう。
もしかしたらタフなのではなく、他に原因があるのでは?
ヒントになる対談があった。『(考論 長谷部×杉田+加藤陽子)コロナ対応・五輪強行 大戦時と重なる政府』(朝日新聞8月20日)である。
ここで加藤陽子氏(東京大教授)は先の戦争で為政者に正確な情報が上がらなかったという例をもとに、
《おそらく今回の「コロナ敗戦」も、都合のいいことしか聞かなくなった為政者のもとに、叱られてもよいから本当に正確なデータを上げる人がいないということなのでしょう。》
と指摘。
楽観シナリオが首相に集まる理由
そういえば以前に次の証言を読んだ。感染拡大する中で楽観シナリオが首相に集まる理由について、首相周辺は「首相がそういうデータを出せというから、そうなる」と語っていたのである(朝日新聞デジタル7月31日)。
「叱られてもよいから本当に正確なデータを上げる人がいない」のはなぜか。加藤氏の言葉をまた引用しよう。
《やはり人事権を握った、官房長官時代からの菅さんと、杉田和博官房副長官のふるまいが大きいと思います。彼らは説明「しない」ことによって、忖度(そんたく)させるという権力の磁場を新たに作った。》
都合のいいデータだけを見てるから菅首相は何が起きても次に「期待」する。自分は「勝負師」と勘違いしてしまう。
このマズい状況を言いあらわす言葉は…
これ、負けが込んでお金がないのに最終レースに根拠なく賭けてしまうギャンブラーの話ではなく、国民のリーダーの姿なのです。このマズい状況を言いあらわす言葉ってなんかあったな。そうだ国難でした。
続いては「政局と政策」について考えてみます。緊急事態宣言が来月12日まで延長された。「9月12日」という日付の意味を、科学的な根拠で探すとよくわからなかった。しかし「政治面」に答えが書いてあった。
《「8月末まで」と、「9月半ばまで」、「9月下旬頃まで」の3案が出た。宣言期間中の衆院解散は世論の反発を招くおそれがあり、難しい。宣言期間が長引くほど、首相の解散権を事実上縛る。考えた末、首相は「やむを得ない。9月半ばまででいきましょう」と決断した。》(読売新聞8月18日)
なんと菅首相の都合だったのである。毎日新聞はさらに具体的だ。
《宣言延長を巡る8月16日の関係閣僚会合で、内閣官房は(1)現状維持(8月31日まで)(2)約3週間後(9月12日まで)(3)約4週間後(同月19日まで)――の3案を示した。最も長い(3)を主張した田村憲久厚生労働相に対し、首相と加藤勝信官房長官は迷わず(2)を指さしたという。》(8月18日)
(3)だと首相の解散権をさらに制約するからという理由。これでは宣言延長を自分の政治都合のために決めたと言われても仕方ない。
※もっとも、このあと横浜市長選の結果が出て『首相、10月前半の解散を模索』(読売)という先述の記事が出た。模索しまくりです。
公私の「私」だけを感じてしまう
よく「政局」の匂いがし始めたり選挙に関する報道が多くなってくると「政局よりも政策を伝えよ」という声が出る。私もその通りだと思う。でも一方でそこに政局があるなら「見る」ことも重要だ。政治は人間がおこなっているからです。
なぜ緊急事態宣言が9月12日までなのか。科学的な意味で考えるとわからないが「菅首相の再選戦略」というフィルターを通すと見えてくる。何度も言うがそれは首相自身の都合だ。でもあえていうなら個人の思惑を公共の利益としてどう納得させるか、そこに政治家の器量があるとも言えまいか。
しかし菅首相には「お主もワルよのう」と思わずニヤッとしてしまう、公共の利益に変換してしまうほどの説得力を感じたことがない。公私の「私」だけをいつも感じてしまう。
《首相周辺は「『12日』は悪手。世の中から感染抑止のためではなく、首相の都合のために設定したとみられる」。》(朝日新聞8月18日)
この言葉そのものだろう。見え透いてしまっているのです。
さて冒頭では《安倍晋三前首相や麻生太郎副総理兼財務相が「菅降ろし」に動くとの観測さえ出始めた。》という記事を紹介しましたが、現時点では「安倍、麻生両氏は首相支持の立場」(読売新聞8月23日)のようです。
しかしこの記事のタイトルは『総裁選「岸田氏出馬」が焦点』。
同日の産経新聞の一面には『岸田氏 総裁選出馬へ 首相との対決軸に』。
横浜市長選が終わり、いろいろうごめいてきました。
「公共の利益に変換してしまうほどの説得力」を、どなたか主張できるのでしょうか。
(プチ鹿島)