「5歳児で脱出難しい」送迎バス熱中症死 悲劇招いた過失の連鎖

福岡県中間市の双葉保育園の送迎バス内に取り残された園児の倉掛冬生(とうま)ちゃん(5)が熱中症で死亡した事件は、29日で発生から1カ月がたつ。福岡県警の捜査や県、市の特別監査からは、送迎バスの1人運行の常態化や、不十分な降車確認、欠席連絡の情報共有不足などが判明。確認不足の連鎖が突然の悲劇につながったとみられる。県警は、関係者の聴取で園の運営実態の解明を進め、炎天下のバス内で園児が死亡に至った過失を特定する方針だ。
「5歳児だと脱出は厳しかった」。冬生ちゃんが取り残されたバスの検証にかかわった捜査幹部はこう明かす。7月29日の朝にバスに乗った冬生ちゃんは夕方発見されるまで約9時間閉じ込められたとみられる。バスはワゴン車を送迎用に改造した車両で、乗降口のスライドドアは施錠されても内側から開けられる仕組みだったが、冬生ちゃんは解錠の仕方が分からなかった可能性がある。県警の再現実験では車内温度が50度以上に達していた。
なぜ冬生ちゃんの不在を気づけなかったのか。過失は少なくとも三つある。
まず、バス降車時の確認不足だ。バスは女性園長が1人で運行し、園児を降ろした後、冬生ちゃんが乗車時に座った後部座席まで確認せず、そのままドアを施錠した。出迎えた職員も冬生ちゃんが既に降車したと思い込んだ。園長の1人運行は2年4カ月前から次第に常態化していたという。
二つ目は、出欠情報が共有されなかったことだ。園では欠席連絡があった場合、ホワイトボードに氏名を記載して情報を共有していた。だが、担任保育士は冬生ちゃんが登園していないことに気づいていながらも、ホワイトボードには名前がないことも把握。園内にいないのに欠席連絡も入っていないという矛盾について、園長らや保護者に確認しなかったという。県と市の特別監査に担任は「1日程度の無断欠席なら保護者に電話で確認はしていなかった」と明かした。
三つ目は送迎バスのマニュアルの形骸化だ。園では2011年ごろ、運転手と付き添い保育士の2人体制での運行を前提とし、降車時に園児の人数を職員が確認することなどを定めたマニュアルを作成していた。ただ、ここ数年は新しく採用された職員に内容を口頭で伝えるだけで、マニュアルを目にしたことがない職員もいたという。1人運行も想定していなかった。
県警は、業務上過失致死容疑で園を家宅捜索し、送迎マニュアルなど関係書類を押収して園の安全管理体制に不備がなかったかどうか調べている。過失事件で注意義務違反を問うには、被害を事前に予見できたとする「予見可能性」と、事前に適切に対応していたら結果を防げた「結果回避可能性」の立証が必要だ。
県警は、炎天下のバス内に園児を放置したら死亡するという危険性の認識とともに、降車時の点呼や、車内点検など確認すべき業務上の注意義務を怠った可能性があるとみて捜査。園の保育士らや他の同規模の園からも事情を聴くなどし、安全指導の実態を明らかにする考えだ。ある県警幹部は「やるべきことをどれか一つでも守られていたら防げた事故だった。重なった過失をひもといて、事案の真相を解明する」と話している。【浅野孝仁、中里顕、飯田憲】