屋久島「サルにエサをやらないで」人里に近づく恐れ 森に影響も

世界自然遺産の鹿児島県・屋久島の広大な森には、ここにしかいないヤクシマザルなどの野生動物が暮らしている。ところが今、その島の生態系を乱しかねない事態が起きている。何が問題になっているのか。
8月中旬、観光ガイドの渡辺太郎さん(44)は、冬でも落葉しない照葉樹林が広がる島の西側にある西部林道を車で走っていて、ある行為を目撃した。
この辺りは、ニホンザルの亜種であるヤクシマザルの群れを間近で観察できる人気スポット。林道の脇に数十頭のサルの群れがいたが、渡辺さんはいつもと違う雰囲気を感じた。よく見ると、1頭が小さなバナナを手にしている。前方ではレンタカーのワゴン車がのろのろと走っていて、窓から群れに向けてバナナが投げ込まれた。
「これはまずい」。渡辺さんはワゴン車の横に車を寄せ「エサをあげないでください」と注意した。運転手は「えっ、ダメなの?」と言って走り去った。観光客だろうか、後部座席には子どもたちが乗っていた。渡辺さんは「たまたま目撃できたが、氷山の一角かもしれない」と話す。
屋久島町などによると、サルへのエサやりや、人に近づき威嚇するサルの情報は、数年前から目立つようになった。2019年には、ガイドが西部林道にせんべいなど大量のお菓子が置かれているのを発見。急いで回収したが、既にいくつかはサルの手に渡り、おいしそうに食べていたという。
なぜエサをやってはいけないのか。サルは普段、森ではヤマモモなどさまざまな種類の木の実やキノコ、昆虫などを食べる。フンの中にはたくさんの種が混じっていて、移動しながら島のあちこちに種をまき、その種から芽が出て森を育む。
しかし、お菓子などの味を覚えて普段食べているものを食べなくなると、人里に近づいて農作物を荒らしたり、人に近づいて襲ったりする恐れもある。将来的には森の植生への影響も懸念される。
町は条例でサルへの餌付け行為を禁止している。今回、改めて「サルにエサをやらないで」と訴えるチラシを配布したり、町内放送や町のホームページ、SNS(ネット交流サービス)などでも注意を呼びかけたりしている。
環境省屋久島自然保護官事務所の丸之内美恵子さんは「野生動物の行動を人間が変えてしまうと、生態系のバランスを崩すことになる。エサを絶対に与えないでほしい」と訴えている。【足立旬子】