小中学校の不登校体験を乗り越えた名古屋市の漫画家・棚園正一さん(39)が、いじめなどで学校になじめない児童生徒を励まそうと講演活動を続けている。夏休み明けは子どもの自殺が増える傾向にあることから、追い詰められている子どもに向け、「学校に行かなくても悲観することはないよ」と救済のメッセージを発信している。(野村順)
「もし、不登校に陥っていた当時の僕に声をかけられるとしたら、『そのままでいい。気にすることはないよ』と言ってあげたい」
岐阜県大垣市内で8月26日、不登校の子どもを抱える母親ら二十数人が集まった講演会。棚園さんは思春期を振り返りながら、どう我が子に接するのかというヒントを示していた。
自身の不登校は小学1年からで、担任の先生から理由が分からないままビンタされたことがきっかけ。たまに学校に行っても、自分を特別扱いするような違和感を覚え、学校をどうしても好きになれず、モヤモヤ感を抱えながら趣味の漫画の世界に入り込んでいった。
中学1年の時、同じ地元・愛知県清須市出身の人気漫画家、鳥山明さんと出会って励まされたのを機に、不登校にあまり負い目を感じなくなった。その後、漫画の道を突き進み、専門学校や名古屋芸術大を経て、2008年にプロデビューした。
7年後に、不登校の体験を描いた「学校へ行けない僕と9人の先生」(双葉社)を世に出し、今年3月には続編を発刊。教育関係者らから反響を呼んでおり、講演依頼が相次いでいる。
大垣市で8月26日に行われた講演会で司会進行を務め、子どもの自立支援活動を続けている元岐阜市立小学校長の近藤聡さんは「不登校に悩む子どもでも、棚園さんがひとり立ちできるところまでたどり着いた話を聞けば、未来は開けると思う」と指摘。実際、フリースクールに通いながらこの日の講演会に参加した中学3年の女子生徒は「学校になじめなくても、自分はこのままやりたいことを続けていけばいいんだ、と肩の荷が下りた気がする」と笑顔を見せた。
「僕は学校を否定するわけではない」と強調する棚園さん。「学校に行ったら、そこでしかできない経験があるし、行かないことでできることもある。自分が選択した道はそれぞれに可能性があり、すばらしい未来が待っているということを伝えたい」と力を込める。
助言は、周囲にいる親や友人らにも向けられる。悩みは否定することなく、寄り添って一緒に考える――。自身の経験を踏まえた、望ましい姿勢だが、本人の苦悩は思った以上に深いこともある。「本当に苦しい時は、手を差しのべられても応じられない。それでも心の痛みやつらさに慣れて、ふと顔を上げられる時が来る。その時、周囲にいる人は『こういう道もあるんだよ』と選択肢を示してあげてほしい」
講演依頼や相談は棚園さん([email protected])へ。