高級ブドウの盗難相次ぐ 転売の可能性も 生産者らパトロール強化

皮ごと食べられる人気の高級ブドウ品種「シャインマスカット」「ナガノパープル」などが収穫期を迎える中、早くも長野県内各地でブドウの盗難被害が相次いでいる。「天災に遭いながらも苦労してつくった作物を、最後まで自分の手で出荷したい」。そんな農家の声を受け、有数の生産地である中野市や須坂市では、地域住民や県警などが協力して防犯パトロールを行い、被害の未然防止を図っている。【皆川真仁】
3日、中野市で行われた夜間パトロールには、農業生産者で構成されるJA中野市果樹部会協議会の役員やJA中野市職員、中野署員ら45人が集まった。参加者たちは12班に分かれて約1時間、同市内の園地を巡回。暗闇の中で懐中電灯を使って、盗難被害や不審者の有無を確認した。
JA中野市によると、同市内では、例年5、6件だったシャインマスカットの盗難被害が昨年は11件と急増した。1回の盗難数量も増加傾向にあり、被害は計1060房に上った。
こうした状況を踏まえて、例年9月中旬から下旬にかけて始めていた農作物盗難の防犯パトロールを上旬に繰り上げ、人員も大幅に増やした。
今後も11月中旬まで不定期でパトロールを行う予定で、同部会長でブドウ農家の田中大士さんは「今年は天災が多く、今まで以上に心配してつくった農作物なので愛着がある。こうした防犯活動が周知され、犯罪が起きないように祈っている」と話した。
JA中野市ではパトロールのほか、防犯カメラ80台、センサーライト20台、防犯システム2台、盗難防止ステッカーを農家に紹介し、盗難防止に向けた対策を講じている。以前盗難があった園では侵入防止ネットを設置するなど再発防止のため工夫を凝らす。
昨年9件の被害・相談があった須坂市でも、昨年より約半月早い8月29日から防犯パトロールを実施している。市や市農業委員会の職員が、県警から使用許可を得た「青色防犯パトロール車」を用いて10月中旬ごろまで巡回する。
窃盗犯の捜査を担当する県警捜査3課によると、今年も北信、東信、中信の各地域で、すでにシャインマスカットやナガノパープルの盗難被害が確認されており、被害総額は約53万7500円に上る。収穫の最盛期を控え、同課は「農家や地域住民と力を合わせて1件でも件数を減らしていきたい」と意気込む。
ブランド化で販売倍増 成功の裏で転売被害か
高級ブドウ品種の人気が国内外で高まる中、JA全農長野は、SNSと相性の良いスイーツ業界での活用を働きかけるなどブランディングを図ってきた。ブドウ盗は、そうしたブドウの急速な高価格化に付け入る形で全国で多発している。
JA全農長野によると、県のブドウ販売取扱額は、シャインマスカットやナガノパープルの登場を経て、2011年を境に増加傾向にある。20年は11年の約2.3倍の167億円で、過去最高を記録した。
全国のブドウ産地は「第2のシャインマスカット」を生み出すために競い合っており、長野から今年、新たなブランドとして打ち出されるのが、県果樹試験場がシャインマスカットなどから育成したクイーンルージュだ。収穫期は9月中旬から10月上旬ごろ。赤色に着色し種がなく、糖度が高い上に皮ごと食べられるのが特徴だ。
JA全農長野は、さまざまなブランディング戦略を展開。仲卸関係者に向けて求評会で特徴をPRするとともに、市場関係者に対しては販売開始に合わせたウェブ販促会議を予定。県内外のラジオコーナーでのPRも図る。
盗難に遭うブドウは高価格で、窃盗犯により転売されている可能性もある。高級ブドウ人気は今後も続きそうで、産地にとっては盗難対策という新たな課題にも悩まされている。