政府は9日、新型コロナウイルス感染症対策本部を開き、緊急事態宣言発令中の21都道府県のうち宮城、岡山両県を除く19都道府県で期限を今月30日まで延長すると決定した。菅義偉首相はこの日夜、自民党総裁選(17日告示、29日投開票)への不出馬表明後、初の会見に出席。新型コロナ対策について自賛を交えつつ、収束に導けずに再選の芽がつぶされたことに無念さをにじませた。一方で、退陣後も影響力を残そうと画策中とみる関係者もいる。
突然の退陣表明から1週間。ようやく菅氏が会見に臨んだ。不出馬の理由を「新型コロナ対策と総裁選は莫大(ばくだい)なエネルギーが必要で両立はできないため」としていたが、この日は「12日の(緊急事態宣言)解除が難しいと覚悟する中で、(コロナ対策に)専念すべきと思い、出馬しないと判断しました」と改めて説明した。
昨年9月に首相就任以降、新型コロナ対策に明け暮れる形となったことを振り返り「国民の命を守る一心で走り続けて来ました。現場の声を聴き、国民に最善の道は何かと決断してきました」と強調。その中で得たことは「ワクチンは効くということ」とし、接種の加速化を自賛。他にもデジタル庁設置や携帯電話料金の引き下げなどの政策も「業績」として列挙した。
30日の総裁任期終了に向けては「内閣総理大臣として最後の日まで、全身全霊を傾けて職務に取り組んで参ります」と宣言。ただ、これを“ラストスパート”とは見ない関係者もいる。会見で「全てをやり切るには1年はあまりにも短い時間だった」と、道半ばでの退陣に無念さをにじませていたからだ。
官邸では退陣会見と宣言延長会見をそれぞれ行うことが検討されたが、首相の判断で一本化が図られた。退任に焦点が当たることを防ぎたい思惑が透ける。宣言延長により、月内にもう一度会見を開くとみられ、官邸筋は「まだ『終わった人』と思われたくないのだろう」と推し量った。
自らが“戦線離脱”した総裁選に関しては「候補者が出そろってないので、(告示日を)迎えた時点で判断したい」と言葉を濁したが、目をかけてきた河野太郎行政改革担当相の選出に期待を寄せる。会見でも、河野氏の出馬に「私自身も官房長官の時に出馬表明した」と閣僚の出馬に理解を示した。
石破茂氏と河野氏の「タッグ」実現への調整にも意欲を示しているとされる。小泉進次郎環境相と4日に衆院議員宿舎で密会した際も、「河野・石破連携」が話題になったもよう。菅政権存続に協力的でなかったとの見方がある安倍晋三前首相や麻生太郎副総理兼財務相への「対抗心」も感じられる。官邸筋は最近の菅氏の様子を「政局を動かそうと裏で力を注いだ官房長官時代に戻ったかのようだ」と表現。退陣後を見据え、影響力維持に動いている。