神戸市立小学校の複数の教諭が同僚に「激辛カレー」を無理やり食べさせるなどのいじめを繰り返していた問題で、加害教諭が市教委から受けた休職の分限処分について、市人事委員会が処分を取り消す異例の裁決を出した。「不祥事を早期に収束させたい」という市と市教委の焦りが、拙速な手続きの背景にあった。(大背戸将)
■処分は違法
市立東須磨小学校の加害教諭4人が休職の分限処分を受けたのは2019年10月31日。関連条例の改正案が市議会で可決されたのは29日で、市教委は同日、加害教諭側に1日以内で弁明書を提出するよう求めた。加害側のうち30歳代の男性2人は「十分な弁明機会が与えられていない」と市人事委に不服を申し立てた。
市人事委は今年8月2日付の裁決書で加害教諭側の主張を認め、「手続きに重大な
瑕疵
(かし)がある」と指摘。市教委が示した処分説明書には、存在しない条文や不明瞭な処分理由が記載されていたことも判明した。
裁決書では「処分は違法で、取り消しを免れない」と指弾。市教委は裁決の受け入れを決め、分限処分によって差し止められていた約4か月分の給与とボーナスを2人に支払う。
裁決でずさんな対応が批判された市教委だが、当時は市側にも「混乱を一刻も早く収めたい」との焦りがあった。19年10月4日に市教委が一連のいじめを公表すると、市民からの苦情が殺到したためだ。
調査の間、4人は有給休暇扱いで自宅謹慎となっていた。それが更なる批判を招き、抗議の電話が鳴りやまなかった。市幹部は「市教委は対応に追われ、まともに仕事ができる状態ではなかった」と振り返る。
市教委は、4人を厳しい処分にするかは調査後に判断する方針だったため、市側は急場をしのぐ「秘策」を考えた。それが「重大な不祥事を起こし、起訴される恐れがある職員を休職の分限処分にできる」とした改正条例の制定だった。
4人への給与支給を差し止めることを念頭に置いた素案を1か月足らずでまとめ、市議会での「スピード可決」を実現した。
■「適正な手続きを」
一方、有識者でつくる市の分限懲戒審査会は19年10月31日、「4人の行為に軽重がある」「起訴される蓋然性が高いとは言えない」として、4人一律の処分を「不相当」と答申。市教委にブレーキをかける内容だった。それでも市教委は処分に踏み切り、久元喜造市長も追認した。
20年2月、加害教諭のうち2人は免職、残る2人は停職と減給とする懲戒処分を受けた。その後の刑事処分は全員が不起訴(起訴猶予)。分限懲戒審査会の答申通りの結論となった。
早稲田大の稲継裕昭教授(行政学)の話「加害教諭への制裁は懲戒処分ですべきで、分限処分で代替した市教委の対応はまずかった。処分自体も条例改正前の行為をきっかけとしており、『法の不
遡及
(そきゅう)』の理念に反している可能性がある。処分時は適正な手続きにのっとり、冷静な判断をすべきだった」
◆分限処分=地方公務員法などに規定があり、職員が心身の故障で職務が遂行できない場合や勤務実績が良くない場合などに適用し、免職、休職、降任させる処分ができる。公務能率を確保することが趣旨で、非違行為をした職員への制裁などを目的とした懲戒処分とは異なる。