大迫力「海峡怪獣」 累計再生回数3億5000万回超 関門エリアPR

「これだけの再生回数は他にありませんよ」(北九州市の担当者)。世にあふれる観光PR動画の中で、累計再生回数3億5000万回を超えた「モンスター動画」がある。関門海峡を挟む北九州市と山口県下関市が共同制作した「COME ON!関門!~海峡怪獣~」だ。
異色の作品は、2017年3月に動画投稿サイト「ユーチューブ」で公開された。自治体によるPR動画の定番は、観光スポットやグルメなど地域の魅力を紹介するものだが、この2分37秒の作品は、地元名物のフグや平家ガニ、タコをイメージした巨大怪獣「カイセンドン」が突如海中から出現し、観光客でにぎわう門司港レトロ地区(北九州市門司区)や唐戸市場(下関市)をパニックに陥れる、というものだ。エキストラで参加した市民も、迫真の表情を浮かべている。
逃げ惑う人々にうなり声をあげた「カイセンドン」は、関門海峡の速い潮流に足を取られ、海中に倒れ込んで姿を消す。最後は「流れがはやい。全部がすごい。COME ON! 関門!」というメッセージで締めくくられ、シリアスな怪獣映画さながらの空気が、最後はコミカルなタッチで終わる。
「ほぼ観光地が映っていない」「ここまで何にもPRしていない動画でいいのか!」。この動画の制作に携わった北九州市職員の日々谷健司さん(54)は、試写で困惑した言葉をぶつけてきた市の幹部の言葉を今も覚えている。「それこそが狙いなんです」
観光PR動画は大きく四つに大別される。観光地などを紹介する「カタログ型」、ドラマ仕立ての「ストーリー型」、著名人で注目を集める「タレント中心型」、そしてこの動画のような「インパクト型」。訪日外国人の取り込みに躍起になっていた2010年代後半の日本で、京都や北海道のような知名度はない北九州市と下関市。日々谷さんは「みんなにとりあえず覚えてもらうことが大事」と企画意図を語る。外国人誘致につなげるため、せりふは英語にし、日本語、中国語、韓国語、タイ語の字幕版を同時公開。その多くは海外からの視聴だという。
動画の企画・監督は、多くのCM制作を手がけ、09年にカンヌ国際広告祭フィルム部門金賞にも輝いた福岡県出身の映像ディレクター、江口カンさん。三次元コンピューターグラフィックス(3DCG)は、映画「ALWAYS 三丁目の夕日」「シン・ゴジラ」を担当した「白組」(東京都)などのチームが制作した。
日々谷さんが事務局長として育てた北九州フィルムコミッションでの仕事が、動画で生きている。迫真の演技をみせる市民エキストラは、市内の道路を封鎖して撮られた映画「劇場版MOZU」(15年)など大型ロケで培った制作チームとのあうんの呼吸が生んだものでもある。「単なるインパクトや3DCGの精密さだけではなく、映像関係者から見たら『さすが映画の街、北九州だな』というクオリティーだと思う」と日々谷さんは胸を張る。
「いいところまで行っていたんですが、新型コロナでインバウンドは止まった」。動画の効果が観光に波及したかどうかは今のところわからない。「いつか、北九州上空を飛ぶ怪獣で、またやりたい」。再び外国人観光客が訪日する未来を見据える。【浅野翔太郎】