一生を共にする伴侶を真剣かつ効率的に見つけたい-。新型コロナウイルス禍で対面での出会いの機会が減る中、利用者が急増しているのが婚活アプリだ。幸せをつかむ有効手段になり得る一方、サイバー空間には純粋な人の思いを食い物にする悪いやからも潜む。大阪で会社勤めをしている30代女性は、素性をで塗り固めた男と1年ほど交際し、約350万円をだまし取られた。「絶対に許せない」。男に心を預けてしまったことを悔やみ、怒りをぶちまけた。
高収入で高学歴
「結婚したら大きな犬を飼いたい」「車はお互い1台ずつがいいですね」
30代の本村真里さん(仮名)は令和元年夏、将来の家庭生活を思い、ある婚活アプリに登録。男性会員のプロフィルを眺めていたところ、一人の男の自己紹介が目に留まった。
「具体的な結婚観を持っている人なのかな」。ネットを通じた出会いに多少の怖さやためらいもあったが、思い切ってメッセージを送った。相手は、川上裕太郎(仮名)と名乗る26歳の男。東京の有名私大卒のITプログラマーで、年収は800万~1千万円としていた。
婚活アプリには女性が無料のものもあるが、真里さんが利用したのは相場よりもやや高い月額利用料約5千円のアプリ。「結婚に真剣な人が多くいるだろう」と考えてのことだ。
リクルートが運営するブライダル総研が全国の20~49歳の男女約5万人を対象にした「婚活実態調査」によると、相談所やパーティーなどを含む婚活サービスを利用したことがある人の割合は平成29年以降増加。アプリをはじめとしたネット系に限ると、4年前の9・1%から令和3年は21・8%にまで伸びた。出会いの場としてのパーティーや会食の機会が、コロナ禍で減ったことも影響したとみられる。
実は妻子持ち
真里さんがメッセージを送った川上は、いわゆるモテるタイプの見た目ではなかったが、メッセージをやりとりするうちにひかれ、初めて会った日に結婚前提の交際がスタート。LINEでの会話や月数回のデートが、真里さんの生活に花を添えた。
ただ、川上は交際開始からほどなく、さまざまな理由をつけて真里さんに金を無心するようになる。
「飲酒運転が会社にばれて降格し、給料が減った」「仕事用のプログラミングソフトを買う必要がある」「ネコを飼いたい」-。
将来の結婚相手を支えようと貯金をはたき、消費者金融にまで手を出したが、一向に返済のめどが立たない。工面した総額は約350万円にも上った。
事態が急変したのは、付き合い始めて1年弱がたった昨年の春。「会社の研修でコロナ陽性者が出て濃厚接触者になった」と告げられたのを最後に、連絡が取れなくなったのだ。
心配した真里さんは、川上から聞いていた勤務先に連絡。だが、電話口の相手は「そうした人物はいない」と言い、川上の住所が実在しないことも知った。
「私、もしかしてだまされてるんちゃう?」
川上の知人を問いただしたところ、名前や住所、職業まで全てだったことに加え、交際開始時には妻子持ちだったことも判明。さらに音信不通となった後、川上は罪を犯したとして警察に逮捕されていた。
裁判所も「詐欺」認定
真里さんは勾留先の警察署で川上と再会。「全部わかっている」。そう告げると素直にを認めた。「でもお前とは本気だった」。現実と慕情の間で悩み、真里さんはいったんは交際継続を決めた。だが、返済はすぐに滞り、釈放後に別の女性と同棲(どうせい)していたことも判明。関係は完全に破綻した。
真里さんは、借金の返済と慰謝料など約660万円の支払いを求めて大阪地裁に民事訴訟を起こした。
地裁は今年9月、「当初から婚姻を前提とした誠実な交際をする意思がなかった」「詐欺の故意があった」と認定し、真里さんに約506万円を支払うよう命じる判決を言い渡した。当初、専門家からは「結婚詐欺は立証が難しい」と言われたが、口座上の送金記録やLINEのやり取りが証拠として残っていたことが幸いした。
「普通に生きてきて、結婚詐欺に遭うなんて思わないですよね」
川上と縁を切った今、真里さんはそう嘆息する。
「結婚したら、きちんと返す」。信じたかったが、膨らむ一方の借金と反比例するようにデートの回数が減り、一度として自宅に呼ばれなかったことも今思えば不可解だった。
真里さんは裁判での勝訴をかみしめつつ、同じような立場の被害者には「証拠を残しておくことが何より大切。泣き寝入りはしないで」と呼びかける。川上については詐欺罪で刑事告訴したといい、「世の中なめていたら、痛いしっぺ返しに遭うということを結婚詐欺師に知らせたい」と力を込めた。(杉侑里香)