東京都港区の東京メトロ白金高輪駅で8月に起きた硫酸を使った傷害事件で、警視庁が容疑者の男(25)(鑑定留置中)の逮捕までに駅や街中の防犯カメラ約250台を解析していたことが捜査関係者への取材でわかった。近年、多くの事件で活用されている防犯カメラ捜査の実態は――。(大井雅之、相本啓太)
「硫酸とみられる液体をかけられた男性が負傷し、容疑者が逃走中」。8月24日午後9時過ぎ、事件発生の一報が入った。
警視庁捜査1課初動捜査班の班員が現場に集結し、駅の防犯カメラに映った男の姿を目に焼きつける。事件の前と後の足取りを追う「前足班」と「後足班」に分かれ、捜査を開始した。
防犯カメラ映像をつなげて足取りを追う捜査は「リレー捜査」と呼ばれる。班員は携帯端末で情報や画像を共有し、統括役の係長(警部)の指示を受けながら作業を進める。
前足班はまず、同駅ホームで被害者の後を追う男の映像から「尾行してきた」と推測。被害者が地下鉄に乗車した赤坂見附駅(港区)のカメラを解析したところ、被害者の後ろを歩いて駅の外から改札口に入っていく男を発見した。
班員たちは駅近辺のカメラを確認するとともに、駅のカメラをさらに遡った。倍速で巻き戻し再生していくと、同じ男が午後6時頃、丸ノ内線で同駅に着いていたことがわかった。いったん改札から外に出て、被害者の後をつけて再び電車に乗っていたのだ。
「男はどこで丸ノ内線に乗ったのか」。それを調べるため、今度は丸ノ内線の各駅に散り、カメラを確認。男の姿があったのは、新宿三丁目駅だ。さらに、付近のカメラが、長距離バスターミナル方向から歩いてくる男を捉えていた。「高速バスで上京した男」が捜査線上に浮かんだ。
一方、後足班は逃げた男を追うため、白金高輪駅周辺のカメラを見て回った。その一つの映像の隅に、路上を歩きながら一瞬、手を上げる人物が映っていた。容疑者と服装は違うが、背格好が似ていた。
「事件後に着替え、タクシーに乗った可能性」。報告を受けた係長は、高速バスの情報もふまえ、「新幹線だ。品川駅に向かえ」と指示した。この時点で、時計の針は25日午前11時を回ったところだった。
推理は当たった。品川駅でタクシーを降り、新幹線の切符を買う男の姿が、複数のカメラに映っていた。JR側に確認し、静岡行きの切符と判明。すぐに班員が静岡に飛んだ。被害者の話から、「琉球大時代の先輩が怪しい」との情報が浮かんだ。男は事件当日に静岡市の自宅に帰り、翌25日午前、新幹線で西へ向かっていた。
「土地鑑のある沖縄に逃げたのでは」。予測通り、男は中部国際空港(愛知県)から那覇に向かう便に乗っていた。警視庁は27日、男を公開手配。翌28日午前、琉球大から約5キロ離れた公園で確保し、傷害容疑で逮捕した。事件発生から約86時間後だった。
捜査幹部は「リレー捜査では、映像を見続ける耐久力だけでなく、手がかりを見逃さないセンスや、犯人の行動を読む力が欠かせない」と話す。今回の事件では、服装が違ったにもかかわらず、路上で手を上げる人物に着目できたことが大きかったという。