重症患者に人手集中「ベッドあっても入院断る苦渋の決断」…[検証コロナ 第5波の教訓]<2>

「せっかくベッドがあるのに、入院を断るのは苦渋の決断だった」
東京都大田区にある

荏原
(えばら)病院の野津史彦・副院長(62)は、こう思いを明かした。同病院ではこの夏、新型コロナウイルス患者用の40床が使えず、「休眠」状態となってしまった。
東京都保健医療公社が運営する同病院は、コロナ専用病院として、都内でも最大規模の240床を持つ。主に軽症や中等症の患者を受け入れ、もともとの想定では重症病床は5床のみ。患者の症状が悪化して重症者が増えれば、重症病床を多く持つ大学病院に転院させる方針だった。
ところが、首都圏では第5波で、感染力が強く、重症化しやすいとされる変異ウイルス「デルタ株」が一気に流行し、重症者が急増。8月4日の段階で、全国の重症者(国基準)は1605人で、その半数の827人が都内の患者だった。
こうした中、大学病院などの重症病床が満床に近くなり、新規のコロナ重症者の受け入れが難しくなった。このため、同病院ではやむを得ず、自前で重症病床を10床に増やした。
ここで、何が起きたか。

同病院の看護師は約180人体制。軽症・中等症患者なら、「患者7人に看護師1人」で対応できるが、重症患者は人工呼吸器の管理や肺保護のためのうつぶせ寝の対応などで、一時的に「患者1人に看護師5人」が必要になる。重症病床を増やせばその分、軽症・中等症病床に回す人手が足りなくなり、結局、同病院は40床分の受け入れ中止を余儀なくされたのだった。
都によると、こうした休眠病床は、都立・公社の14病院のコロナ病床の2割にあたる400床超に上った。

さらに、コロナ患者以外の一般診療も担う民間病院では別の問題も起きていた。
各病院は「コロナ患者が急増した時、コロナ以外の患者を別の病院に転院させるなどして確保する病床」(確保病床)と、すぐに使える「即応病床」の数を、自治体に報告している。
東京都内の場合、8月上旬の「確保」は6406床で、「即応」は5967床。つまり、いざとなったら約400床はコロナ患者のために上積みができるという想定だったが、実際は入院中の一般患者を急に転院させるのは難しく、コロナ病床を増やせなかった。

東京で医療の

逼迫
(ひっぱく)が進んだ背景には、休眠病床の発生に加えて、こうした「計算上の病床数と現実の差」もあった。