阿蘇山噴火 積もった灰を手に「またか」 表情曇らせる観光業者

白煙たなびく火口から突如黒い噴煙が立ち上り、たちまち青空を覆った。20日正午前に起きた熊本県・阿蘇山の噴火。噴火警戒レベルが3(入山規制)に引き上げられるのは2016年10月の噴火以来5年ぶりで、自治体は被害確認に追われた。全国で新型コロナウイルスの感染者が減少し秋の行楽シーズンへ期待が高まる折だけに、観光業者は「客足に影響しなければいいが」と肩を落とした。
噴火があった阿蘇山・中岳第1火口から南東へ7、8キロの熊本県高森町上色見地区。「またか」。道に積もった灰を巻き上げて車が行き交う中、専業農家の楢木野(ならぎの)孝一さん(74)はトラックに積もった灰を手に嘆いた。噴火したのは稲刈り作業のさなか。細かい石混じりの灰が15~20分降り続き、空が真っ黒になったという。
作付け2ヘクタールの稲はほぼ刈り終えた。しかし、繁殖牛の飼料の稲わらに灰が降った。「機械でも取りきれないかもしれない」。9月下旬に植え付けた飼料用牧草も気がかりだ。16年10月の爆発的噴火では生育が悪くなり、飼料を買う羽目になった。「被害が大きくなれば農家は立ちゆかなくなる」。阿蘇の周辺自治体は降灰被害がどこまで広がっているか確認を急いでいる。
今回の噴火で人的被害や家屋被害は確認されなかったが、観光業に携わる人たちは表情を曇らせる。
郷土料理店「高森田楽(でんがく)村」を営む後藤潤子さん(55)は噴火時、町役場近くに買い出しに来ていた。車で慌てて店に戻る道中、粒状の灰が「屋根にパラパラと音を立てて落ちてきた」。店は新型コロナウイルスの感染拡大後、客の入りが半減。ここに来てようやく落ち着きを見せ、11月には修学旅行の予約も入っていただけに「これから紅葉シーズン。緊急事態宣言の解除で行楽客も増えると思うので、影響が長引かないでほしい」と祈るように話した。
16年4月の熊本地震後、阿蘇観光は苦境の中にある。阿蘇市によると、同市の宿泊客は15年まで年間70万~80万人台で推移していたが、熊本地震では県中心部との大動脈だった国道57号が土砂崩れで寸断された。県内外からのアクセスが悪化し、18年の市統計では年間宿泊客が15年から20%減の62万5684人。コロナ禍が広がった20年は22万6450人で10年前のほぼ4分の1に落ち込んだ。
阿蘇の名所の一つで、中岳第1火口から西へ3キロの「草千里」(阿蘇市、南阿蘇村)。レストラン「ドゥース ヌッカ」(阿蘇市永草)の従業員、中川郁雄さん(61)は「コロナ禍が少し収まってようやく観光客が戻ってきたところなのに。また風評被害で減らないか心配だ」と話した。【蓬田正志、比嘉洋、山口桂子】