【ニュースの深層】世界でも注目集まる社会問題「HIKIKOMORI」

今年5月に発生した川崎市の児童殺傷事件の影響で、改めてクローズアップされた「引きこもり」。海外でも日本語の発音のまま「HIKIKOMORI」として紹介されているが、日本特有の問題というわけではなく、最近では他国でも対策や支援の必要性が叫ばれ始めている。(大渡美咲)
どこでもあり得る
「引きこもりは『豊かさの産物』として批判されるが、古今東西、どこの国でも、いつの時代でも、どんな状況でもあり得るものなんです」
30年以上にわたって断続的に引きこもりを経験し、インターネット上で世界中の引きこもり当事者らをつなぐネットワーク「世界ひきこもり機構(Global Hikikomori Organization/GHO)」を展開する、ぼそっと池井多さん(57)はこう語る。
GHOに参加している人は100カ国以上。池井多さんは、堪能な語学を生かし、海外の引きこもりの「生の声」を紹介している。先進国だけでなく、バングラデシュなどの途上国の引きこもり当事者のインタビューも手がけている。
川崎の事件などを契機に、海外メディアからの取材を申し込まれることが増えたというが、「日本だけではなく、あなたの国にも引きこもりはいますよ」と伝えると、驚かれるという。池井多さんは「引きこもりを日本特有のものとして特別視せず、どこにでもある普遍的な現象だと知ることが問題の正しい認知につながる」と力を込めた。
事情の違いも
日本では、いじめや人間関係などが引き金となることが多い引きこもりだが、海外では、その国ならではの事情が関係していることもある。
フランスの引きこもり事情に詳しい精神科医の古橋忠晃・名古屋大学学生支援センター准教授は、「以前ならば、攻撃性が外側に向かう暴動などの形をとっていた移民問題や失業、社会的差別などの要因が、現在では内側に向かう引きこもりにつながっているケースがある」と打ち明ける。
フランスの精神医学を学んだ古橋さんは、現地で引きこもりの実態調査や訪問診療に関わっている。昨年秋にはフランス北東部のストラスブールに引きこもりの相談窓口を開設、指導などの形で関わった。現地の訪問医療制度を活用し、引きこもり本人の自宅を現地の看護師とともに訪ねて対話を重ねている。
フランスでは10年ほど前から、社会活動に参加しない若者の存在が認識されるようになってきたといい、古橋さんの講演には、多くの引きこもり本人や親が訪れるという。古橋さんは、「日本の引きこもり支援は社会復帰がゴールになりがちだが、フランスでは『孤立しても、それは本人の生き方』と引きこもりを積極的にとらえる傾向もある」と指摘。引きこもりを社会の課題を映し出す存在ととらえ、そこから社会を読み解く姿勢を持つことの重要性を強調した。
支援体制整備を
引きこもり的な現象が世界的な課題になりつつあることは、似た位置づけの「ニート」(15~34歳で就学や就労をせず、職業訓練も受けていない人)の増加も、その証左といえる。
経済協力開発機構(OECD)が行った2018年の調査によると、15~29歳のニートはOECD加盟国の平均で13%。高い国では、トルコ26・5%、ブラジル24・9%、イタリア23・9%だった。
長引く不況で将来に不安を抱える若者が多いことが要因とされているが、最近では欧州で「(引きこもり先進国の)日本に学ぶべき」との声が、専門家の間で上がっているという。
池井多さんは「引きこもりについて国を挙げた調査を行ったり当事者や親への支援体制が整備されている国は日本ぐらい。そうしたノウハウは他国でも生かせるはずだ」と話している。

引きこもり 会社や学校に行けず、家にこもりきりになる人を指す用語。内閣府は、家族以外とほとんど交流せずにこうした状態が6カ月以上続いた場合を「引きこもり」と定義している。今年3月には40~64歳の引きこもりが推計約61万人にのぼると公表され、中高年の引きこもりにも注目が集まっている。