【紀州のドン・ファンと元妻 最期の5カ月の真実】#83
野崎幸助さんが亡くなった翌日、25日の午後8時半ごろに男女6人の若い刑事たちが、早貴被告から事情を聴きたいと野崎さんの自宅にやってきた。そのとき自宅にいたのは私だけで、早貴被告と大下さんはスーパー銭湯に出かけていて不在だった。
「亡くなった悲しみもなくスーパー銭湯に出かけていくなんて」
ワイドショーでのコメンテーターの発言には、苦笑するしかなかった。はっきり言って早貴被告はドン・ファンに対して、亡くなって悲しむという気持ちは持っていなかったから普段通り行動していたし、遺体もまだ自宅に戻っていなかったから出かけておかしいということもない。
私はボクシングのタイトルマッチを見たいがために彼女らの誘いを断ったが、チャンピオンの井上尚弥が1回KOで勝った後に刑事たちはやってきた。
「キミはどこの出身なの?」
「私は串本です。分かりますか?」
「そりゃあ分かるさ。向かいは紀伊大島の串本だろ。トルコの船を助けた歴史もあって姉妹都市を結んでいるよね」
「よく知っていますね」
「なあに、和歌山県内はほとんどの市町村を回っているから」
「へえ、そうなんですか」
20代前半に見える若い女性刑事が目をみはった。
「もう社長の死因は分かっているんだろう?」
「どうですかねえ。私ら早貴さんから事情を聴くために署に連れていくのが仕事ですから」
リーダー格らしき男性刑事が苦笑する。そんなわけがないことは高揚している彼らの表情を見ればわかる。きっと何かをつかんだはずだが、それを隠そうとしているから私との世間話の受け答えも上の空だ。
午後9時ごろにスーパー銭湯から戻ってきた早貴被告は玄関で署まで同行することを求められた。
「ダメだ。撮るな」
彼女が女性刑事の運転する車に乗り込む様子を片手に持ったデジタルカメラで狙おうとすると、男性刑事が手でレンズをさえぎろうとした。
「あのなあ、ここは公道上なんだよ。キミがボクの行動を規制することはできないんだ。そんなの常識だろ」
「公務執行妨害だぞ」
「アホか。キミが撮影の邪魔をしているんだから、こっちが威力業務妨害で訴えるぞ」
公務執行妨害と言えばなんとかなると思っている警官が多いことにあきれてしまう。=つづく
(吉田隆/記者、ジャーナリスト)