政府が新型コロナウイルスの感染拡大に伴う日本への入国制限を8日に緩和する。母国に留め置かれていた多くの留学生も来日できる見込みとなり、大学関係者からは歓迎の声が上がる一方で、これまでの日本の対応に「無責任な状態だった」「学生の貴重な時間を奪った。遅きに失した」との批判もある。検疫の専門家は一律の規制や緩和に疑問を示し、「受け入れる大学は検査や隔離など留学生の管理を怠らないでほしい」と求めている。
「モチベーションが下がって、なかなか勉強に集中できず困っています」。オンライン会議システムを使い、総合研究大学院大・遺伝学専攻(静岡県三島市)の岩里琢治教授と会話していた中国人の女子学生(25)が漏らした。私費留学の女子学生は4月に博士課程に入学したが、日本に入国できないまま半年が経過していた。
女子学生は現在、地元の中国山東省で生活している。神経科学分野の論文や教科書を読んだり、研究室のオンライン勉強会に参加したりしているが、本来は取り組んでいたはずの実験はできていない。脳神経の仕組みを解き明かすための研究には実験は不可欠だ。女子学生は「(制限緩和の)良いニュースを聞いてうれしいです」と話したというが、岩里教授は「入国できず本質的な教育はほとんどできていない」と焦りを隠さない。
京都大の見学美根子教授(神経発生学)の研究室にも、4月に中国人の男子学生(22)が私費留学で入学した。2020年1月の入試で合格し、同年10月に入学予定だったが、コロナ禍で入学は今春まで延期された。今春に入学できたものの、中国からオンラインで授業や指導を受けている状況で、この学生も実験には取り組めないままだ。見学教授は「オンライン指導だけの状況で、学生の意欲が下がっている。日本が学生の貴重な時間を奪ってきた。入国制限緩和は遅きに失した」と批判した。
G7で日本のみ認めず
日本は感染拡大防止の水際対策として外国人の新規入国を段階的に制限し、20年10月に緩和した。しかし再び感染が拡大し、21年1月に外国人の新規入国を再び制限。国費留学生など一部を除き、留学生全体の約95%を占める私費留学生は入国できない状態が続いていたが、8日に入国規制が緩和されることになった。同時に、留学生と同様に制限されていた外国人のビジネス関係者や技能実習生の入国も条件付きで容認される。
出入国在留管理庁によると、「留学」の在留資格で新規入国した外国人留学生は21年上半期は7078人で、19年上半期の6万1520人と比較すると約1割に減った。文部科学省によると、主要7カ国(G7)で留学生の新規入国を原則認めていなかったのは日本のみで、留学生を受け入れている大学関係者からは早期の入国制限緩和を求める声が相次いでいた。
留学生の入国制限が続いていたことに、大学関係者は危機感を示している。留学生の教育をおろそかにすると、優秀な学生が今後は日本を留学先に選ばなくなる可能性もあり、見学教授は「留学生は研究の推進力ともいえる。『鎖国』ともいえるこれまでの方針は深刻な信用問題で、日本の国際的な存在感の低下にもつながる」と危惧する。
また、国際的な人脈や、将来的に国際共同研究につながる機会を失うことにもつながりかねない。総合研究大学院大の岩里教授は「科学の発展に国際交流は必要で、留学生はその重要な柱。受け入れた留学生を適切に教育することは日本の責任だが、責任を放棄した状態が続いていた」と厳しく批判した。
一方、検疫などに詳しい国際医療福祉大の和田耕治教授(公衆衛生学)は政府が入国制限を緩和する方針を示したことについて、「一律の緩和ではなく、出身国の感染状況などで個別にリスク評価して緩和すべきだ」と指摘。「受け入れる大学は検査や隔離など留学生の管理を怠らないでほしい」と要望した。
国立大学協会と日本私立大学連盟もこの状態を問題視し、9月末に「外国人留学生の流出や減少は、我が国の研究力の低下や将来の安全保障面を含めた我が国のプレゼンス(存在感)の低下にもつながりかねない極めて深刻な事態」などとして私費留学生の新規入国停止の緩和措置を求める要望書を関係省庁に提出していた。
文科省の担当者は「留学生が入国できない状況に危機感は持っていた。停滞していた留学生交流が活性化していく重要な一歩としたい」と、緩和の方針に胸をなで下ろした。岩里教授は「長期滞在する留学生と何度も出入りするビジネス客を同列に扱うのはおかしい。再び感染が拡大した場合も、これまでのような一律規制の対応を取らないようにしてほしい」と求めた。【鳥井真平】