陸上や体操などの競技に取り組む選手の体の一部を性的な意図で
執拗
(しつよう) に撮影する、いわゆる「アスリート盗撮」が社会問題化している。京都府内でも今夏、府警の捜査員が警戒中に撮影行為を摘発する事案が発生した。府警や体育団体の関係者は「卑劣な行為を許さない」として、連携して対策強化を進めている。(河部啓介)
「こうした場所が撮影スポットになりやすいから特に注意を」。10月、府警の捜査員が互いに確認し合いながら京都市内の陸上競技場周辺を巡回し、不審な行動を取る人物がいないかに目を光らせた。柵には、目隠しとなるネットや、「競技場外からの大会観戦禁止」の掲示が施されているが、それでも特に短距離の選手らがスタート、ゴールする地点は狙われやすいという。
8月22日午前、高校生の陸上競技大会が開かれていた市内の競技場で、ユニホーム姿の女子選手の下半身などをデジタルカメラで撮影していた男(47)が任意聴取され、翌月、府迷惑防止条例違反容疑で書類送検された。「性的な目的があった」という男は、インターネットで近畿、北陸の大会を調べ、各地を巡っていたという。
昨年1月に府条例が改正され、こうした行為を「卑わいな言動」として取り締まることができるようになった。今回の事件では、性的な目的で執拗に下半身を狙った写真を計34枚撮影した点などが、着衣の上からでも該当するという。
最高裁も2008年、ズボン姿の女性を約5分間、約40メートルつけ狙い、背後1~3メートルの距離から尻を約11回撮影した例について、「ズボンの上からでも、社会通念上、性的道義観念に反する下品でみだらな動作」として、卑わいな言動と認定している。
「盗撮」問題には、府高体連も頭を悩ませている。陸上競技専門部では、不審な撮影を行う人に声掛けをするなどしていたが、画像を転送してカメラから消したり、「保護者だ」と
嘘
(うそ) をつかれたりするなどしており、対応は困難を極める。自衛策として、撮影を求める保護者に腕章を配布したり、場内アナウンスや大型スクリーンで注意喚起したりと苦心する。「選手は純粋に競技に集中したいのに、困ったもの」。同部の渡辺為彦委員長はため息をつく。
この状況を打開するため、8月、府警と高体連の関係者らが集い、対策を話し合う会議が初めて開かれた。高体連などからは、「注意をしてもめた場合はどうすればよいのか」「女子選手は盗撮やネット上への拡散に大きな不安を抱えている」など、切実な声が上がった。
これに対し、府警人身安全対策課は、不審者を発見した際の対処法などを助言。新たに製作したチラシの活用も呼び掛けた。渡辺委員長は、「警察との連携は不可欠。継続性のある取り組みにつながり、他の競技にも対策が波及してほしい」と期待する。
こうした撮影行為が被害者に与える苦痛は大きい。8月の事件で、被害を受けた女子高校生(17)の関係者は、府警を通じて「毎日の苦しい練習を乗り越えて大会に挑んでいたのに、競技に対する真っすぐな思いを踏みにじられた」と苦しい胸の内を明かしている。
犯罪被害者支援に取り組んでいる高橋みどり弁護士(京都弁護士会)は、「被害者にとっては、画像などが記録として残り続けることが恐ろしいのであり、残っている限り、被害は継続していると言える」と指摘する。
一方で、取り締まりには困難さが伴う。「盗撮」は一般的には着衣を身に着けていないか、下着姿などを撮影することを指しているうえ、本人の意思に反して撮影すること自体を禁じた「盗撮罪」などの規定はないからだ。
ただ、昨秋以降、法務省の検討会では、盗撮罪の新設を視野に議論が進んでおり、高橋弁護士は「社会的な要請が高まっていることを背景に、被害実態を明らかにして、法整備につなげていってほしい」と期待。府警人身安全対策課の西田勝志課長は「競技に打ち込む生徒たちが、安心して取り組める環境作りをするため、摘発と啓発を続けたい」と力を込める。
◆アスリート盗撮= 昨年11月、日本オリンピック委員会(JOC)などの団体が、被害防止を訴える共同声明を発表。東京五輪・パラリンピック大会組織委員会では今年3月、競技会場での禁止行為に、性的目的での撮影を加えるなどした。